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第16話 空に帰れない満月
しばらく自宅には帰れない理由ができた満月は学校に行けるよう身支度を整えて田中の運転する高級外車に乗り込んだ。
ほしいと思っていた人物がこんなにも簡単に手にできて幸せな美月だったが、一方の満月は複雑な心境でいた。
好きだった相手がまさかの極道 の若頭という立場だった。
だからといって嫌になったとか軽蔑したなどとは思ってはいないのだが、好きな相手に守られてしまったことに悔いていた。
もしあの場に美月がいなかったら自分は死んでいたかもしれない。
田中が借金取りを羽交い締めしたとき、上着の下のサラシに刃物の柄が見えたのだ。
多少の武術は知っていたとしても、刃物を出されたら自分は太刀打ちできない。
そしてきっと自分は美月の弱点になるのだろうと思うと、果たしてこの結果が最善だったとは言えないのかもしれないと考えていた。
「美月さん、俺これからどうしたらいいですか」
もしかしたら学校も部活やめたほうがいいのかもしれない、そのことを美月から聞けるかもしれないとそう思い上機嫌の彼に声をかけた。
「お前が家に荷物取りに行ってる間に月夜さんから親権買う相談してたんだ。でも当たり前にもらえなくてさー?まぁ養育費は払うから安心して学校通って部活もやりなよ」
美月が学校に通うことどころか部活まで許可してくれた。
「本当にそれでいいんですか?」
「でも部下に送り迎えはさせると思うから、行動の自由は少なくなるだろうな」
満月の手に美月の手が重なる。
「オジサンに買われちゃったな。お空 に帰れないなんて、可哀想な満月」
そう言って笑う美月は綺麗だった。
「美月さんがオジサンなんて思ってないです」
「十代からみたらアラサーなんて、どう見てもオジサンだろ」
容姿はまだ大学生のような美月だが、本人はもう中年だと自覚していた。
「筋肉も前より落ちたし、やっぱり歳だよなぁ。満月、見るか俺の身体」
そう言われてスーパー銭湯で裸になった美月を思い出した満月は身を固くした。
「みっ見ません!!」
「あれ、断られた。田中は見たいよな、俺の身体」
「っ?!……若は立場考えてくだせぇ」
突然話を振られた田中ですら声色が少し裏返っていたから、あながち気がないわけでもないのだろう。
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