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第17話 素直
都内の一等地マンションの前に満月達が乗った高級外車は止まった。
そのマンションは高層ではないが、かなり高級感が漂う。
まるで選ばれた人間しか住むことが許されない、まさにそうな雰囲気だった
田中は運転席から降りて美月側のドアを開ける。
「田中、満月の朝練に間に合うように来いよ」
美月は車から降りながらそう言う。
「えっ、おれが送るんっすかっ?!」
「今から満月の送迎の野郎を決めてたら、俺もお前も寝る時間なくなるだろ。満月、朝練何時だ?」
「やっぱり、いつも通り電車で通います」
自分に合わせて田中を早朝起こさせるわけには行かないと思い、満月は遠慮した。
「言えないってことは、始発だろ?いつも学校に何時に着くんだ。素直に言えよ、言わないとキスするぞ」
美月とのキスなら言わなくてもいいかとか一瞬思ってしまったが、そういうわけにもいかないこともわかっている。
「……学校に着くのは六時半頃です」
「早朝なら飛ばせば二十分で着くだろ。六時にエントランスに車付けとけ」
「っす!!」
勢いよく走り去った高級外車は曲がり角で見えなくなった。
自分のせいで早起きをせざる得ない田中に申し訳ない気持ちで満月は見送ると、それを見た美月は軽く嫉妬を感じた。
「学校に着く時間、言わなきゃよかったって少しでも思ったか?」
満月は驚きを隠せず、そのまま言葉を放った相手を確認したが、美月はもう既にマンションに向かって歩き出していた。
「俺は満月にキスしたかった」
もし田中の前で満月とキスできたら、田中の前で見せ付けるようにキスができたら、アイツは俺を諦めきれたかもしれないのになと思った。
「俺をからかってるんですか、美月さん!!」
そうだよ、と言わんばかりに微笑む美月は部屋の鍵をチラつかせた。
「俺の後についてこないと部屋に入れてやらないからな」
微笑む美月は、月の光のように綺麗だと満月は思った。
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