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第22話 思春期の恋愛脳

その日の朝練の満月は集中しにくく心を乱していた。 そしてそれを理由に矢を射ることを諦めた。 心に乱れがあると射ようとしても的にすら当たらないことが多くなる。 こういうときは精神統一をしても無心になることはできないため、ほぼ筋トレをしていることが多い。 朝練に参加している部員達は、いつもなら無骨だが優しい部長夜霧満月に声をかけるのだが、今朝の部長は声をかけようにも近寄りがたく熱心だった。 筋トレだけするわけにも行かず、矢を射らなくとも弓を引くことも練習しはじめた。 何事にも取り組むことが大事だと、初心に帰るつもりで今日は朝練を終えた。 ようやくそこでいつも通りの調子に戻れた満月は軽く汗を拭き制服に着替えた。 「部長、どうされたんですか?今日ちょっといつもと違いますよね」 人懐こい後輩に声をかけられて満月は苦笑いで答えた。 「俺だって人間だから、調子の良いときと悪いときはある」 それでも朝起きた時よりも頭の中はサッパリとしてた。 そして部長の深くて優しい穏やかな口調に周りの部員達はようやく胸を撫で下ろした。 「真面目で完璧な部長でも調子の悪いときがあるのか」 「オレたちと夜霧は違うと思ってたけど、案外普通なのかもな」 口数が少なく真面目にしか取り組むことしかできない自分がまさか『完璧』だと思われていたことに気付き、満月は内心驚いていた。 自分自身の気持ちすら理解できていないのだから、他の人から自分を理解できていることすらあり得ないのだろう。 そしてその自分が初めて好意を抱いた相手すら完璧な人間じゃないことも昨日知った。 「……はぁ」 満月は片手を頭に当てて、溜め息を吐いた。 考えないでいようとしても、結局は美月のことを思い出してしまう満月の頭の中は、今年相応な思春期の恋愛脳と化していた。

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