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第29話 新しい運転手

その週の土曜、美月は新しく運転手兼ボディーガードを連れて満月の部活終わりに現れた。 「満月、この人元じいちゃんの秘書の町屋さん」 「美月さん」 「……会長の元秘書の町屋さん」 町屋に言われ言い方を正すということは、美月にとって抗えない存在ということだろう。 「私は町屋 秀彦(マチヤ ヒデヒコ)と言います。宜しくお願いします、夜霧 満月君」 握手を求めらていれるようなので、満月は町屋の手を握る。 「俺のことを知っているんですね」 町屋は満月よりも若干身長は低いが、体格は良かった。 きっとこの人も田中と同じように武道をやっているんだろうと察した。 「ええ、君のことは会長から素性を調べるようにと言われているので、軽くですが知っていますよ」 穏やかそうな笑顔のだが、瞳の奥は笑ってはいないことに気付いた満月はハッとした 「そんな脅すような言い方しないでよ、町屋さん。満月が怖がっちゃうだろ〜」 「失礼しました」 美月が注意すると、町屋はすんなりと謝罪した。 田中同様、やはりどこかこの人も美月にはどこか甘いようだ。 気を取り直して美月はニコリと嬉しそうな笑顔で言った。 「これから満月にもちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど」 まるでデートにでも誘うような軽やかな言い方で言う美月に、満月は心を奪われそうになったが……。 町屋は満月の荷物を車の荷台に乗せ、そして荷台から一着のスーツを取り出した。 「申し訳ないけど、車でこれに着替えてくんないか?」 そういえば美月も町屋も黒いスーツに身を包んでいた。 これで黒いネクタイを締めたらお葬式だなと思いながら聞く。 「どこに行くんですか?」 「告別式だよ。……田中が殺した相手(オジキ)のな」

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