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第30話 陰口

北白川組員幹部の告別式は相当な金を積む贅沢なものだった。 揃えで誂えたような組員喪服姿の中で、一際容姿が整った美月の姿は息を呑むほどに美しく感じた。 美月とは別のその他の位置にいた町屋と町屋の連れと説明された満月は隣にいた。 「町屋さん、あんたみたいな人がなんでこんなことろに座ってんですか?」 ゴロツキのようなチンピラ達が町屋に耳打ちしていた。 「私は今は美月さんの下で動いてますから。会長とは別件ですよ」 穏やか面持ちで言うとチンピラは更に続けて言う。 「あの女狐がオジキを田中使って()らせたんだろうが。よくまああんなところで涼しい顔してすわってやがる……」 満月でもわかった、女狐とは美月のことだろうと。 あの人がそんなことをさせるわけがない、そう言いたかったが、町屋は笑ってチンピラ達に言った。 「美月さんは美剣(ミツルギ)会長の御孫様、一応は若頭です。貴方達が陰口を言える立場ではないと承知で話していますか?」 穏やかな言い方でもどこか棘のある言い回しをされて、チンピラ達は逃げていく。 「気にしないでください、満月君。美月さんは雑魚の言葉は気にされません」 「あ、……はい」 「貴方は何も反応したらいけません。この場での貴方は美月さんの義弟として存在しています。何かしでかした場合は美月さんが責任を取らなくてはいけくなりますからね」 告別式なのになぜ制服で参加が無理だったのかを、満月はその時に理解した。 「アンタのせいでうちの人はっ!!アンタが死ねばよかったんだよっ……」 美月が焼香をしていると奥さんらしき人が詰め寄った。 詰め寄られ身体を叩かれ始めたが、美月は無表情のまま親族席に座った。 「若頭の美月がいなきゃ、この組の財は潤わらねぇからな」 「いや……わからねぇぞ?もしかしたら美月がオジキを()って、田中に命令してサツに出頭させたかもしれないだろ」 「組長(オヤジ)の義弟なら美月にとって謂わば親族じゃねえか」 「あんな綺麗で弱そうな顔して、とんでもねぇ女狐だぜ」 飛び交う美月への陰口に酔ってしまった満月の顔色と目付きはどんどん悪くなっていく。 見ていられなくなった町屋は満月をつれて、葬祭場の庭に避難した。

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