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第32話 北白川組会長
告別式が終わり、態度には出さず内心溜め息を吐く美月に町屋と満月が合流した。
「美月さん、会長が特別室で待っていらっしゃいます」
今まで態度には出さなかった美月にも我慢の限界を感じているようで、露骨に顔を歪ませた。
「やっと家に帰れると思ったのに」
さすがに自分は美月の祖父に会えるような人物ではないだろうと、満月は口を開いた。
「俺はどこにいたらいいですか?」
満月を一人させるわけにはいかないと思った美月はようやくここで気付いた。
会長は美月に会いに来たのではなく、美月が気に入っている満月を観に来たのだ。
こんなことろに連れてこなければよかったと美月は思っていた。
「いいか満月。何を言われても、何を見ても、無反応でいろよ?俺は今お前を守れないと思う、自分の身は自分で守れ」
美月は姿勢を正して用意された部屋に町屋の先導で向かう。
美月のその後に満月がついて歩く。
美月の姿に周りのヤクザ達は注目をしている。
案内された部屋に入っていく美月たちの後を満月はついていくだけなのに、弓道の試合よりも張りつめた空気がピリつくのを感じる。
今自分も注目されている、この瞬間自分が生きてく世界の入り口を見た。
もう後戻りはできないと思った。
「久しぶりだったな、美月」
部屋の奥の中央に座った紋付袴の老人が口を開いた。
一見穏やかそうな老人に見えるが、この人こそ北白川組の会長北白川 美剣 、美月の祖父だった。
「お久しぶりです、会長」
美月も穏やかに微笑して答えた。
「もうじいちゃんとは呼んでくれないのか、美月」
「俺ももう立場のある身です。いつまでも子供ではいられませんよ」
すると美剣は一瞬にして鋭い目付きになり、周りの者達を追い払った。
「大樹、お前もだ。下がれ」
「義親父 、俺は美月の親父です」
この隣に座っている狸のような男が美月を目の敵にしている北白川組の組長かと満月は視線を送った。
「大樹、お前が美月にしてきたことを知らない儂ではないよ。下がれ」
美剣の命令で組長大樹も部屋から追い出され、扉は閉まる。
「これで腹を割って話せるか、美月」
「会長のせいで組に俺の居場所がないの、知らないわけじゃないでしょう」
「男の嫉妬ほど醜いものはないな」
美剣は美月の祖父、芯に血が繋がっていることが満月でも理解した。
それほどまでに性格が似ているのだ。
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