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第33話 美剣の尋問
美月は美剣の隣に座って話しだした。
「会長は俺と話がしたくて呼んだのではないことくらい気付いてます。早く家に帰りたいので、本題に入ってくれませんか」
美月の機嫌は相当悪かった。
無理もない、大樹が仕組んだことだが、自分のせいで人が死に、自分のために殺人を犯した部下がいる。
その死人の葬儀がここで行われている、機嫌がどうのという、そこすらズレているのだ。
「お前は儂の若い頃に性格だけはそっくりだ。だからか儂は美月が心底可愛い。今の組が居辛いな新しく組を分けてやってもいいとすら思う」
いくら孫だとはいえ、美剣の溺愛ぶりは部下達が嫉妬するのは理解できそうだと満月は思った。
「組は持ちません。俺極道 は向いてないって自分でも理解してますし、命 取られて即終了ですよ」
「だが美月、お前絡みの人材は皆優秀だよ。今回の夜霧 満月もだ。育てれば将来頭 を張るお前の右腕になるだろうよ」
急に本題の満月の話になり、美月は内心我に返った。
冷静にならなければ話は美月の都合の悪いほうに持っていかれることになるだろう。
「何も可愛がるだけで側に置いているわけではないだろう、美月」
「そうですね。学業を卒業したらイチから指導します」
「ならば優秀な教育係を付けなくてはな。なんせ北白川組の会長になる美月の補佐だからな」
「だから俺は頭 を張るつもりはないと言ってるんです。満月の母親が俺に借金を返し終われば、コイツは一般人になる身。……じいちゃんに任せたら戻れなるだろうが?」
冷静さをうっかり失った美月は息が上がっていた。
「まぁ、儂に任せたら一般人には戻れないなぁ。だが彼がそれを望んでいなかったらどうするのだ」
美剣は満月に向かい言った。
「夜霧よ、お前は美月の隣にいる覚悟はあるか?愛しい相手と同じ世界に居たいと思わないのか」
「満月、何も答えるな」
この部屋に入る前に美月が言った言葉は、『何もするな、何も言うな』と同様のこと。
だが満月は先程町屋に言われ決心をしたばかりだった。
「俺は美月さんの存在する世界にいたいです」
例え美月に反対されても母に泣かれても、自分の人生は自分で決めると誓ったのだ。
「美月さんの見る世界を一緒に見たいと思っています」
ハッキリとした言葉で自分の意志を伝える満月を見て、美月は絶句した。
「ふん、いい面構えだ。こいつのこの決心は揺らがなそうだぞ、美月」
美剣は満足げに笑っているが、美月は言い切る満月に不安を感じていた。
美月の欲しいものは今まで評価されず、手放す運命にあったのだから。
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