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第34話 外堀
葬祭場の特別室から北白川組会長美剣と若頭美月が一緒くたに出てくる姿を見て、組員達は北白川組の跡目は組長大樹ではなく美月が背負う形になるのだと確信した。
美月は計られたことに今更気付き、綺麗な顔を歪ませていた。
「美月、組織の頭というものは跡目を継ぎたいという志だけでは上手くいくもんじゃあない。儂だってそうだ、親父から会長というこの座を引き継ぐのは嫌だったし、やりたいものがやればいいと思った。だが極道 も会社のようなもの、今現状ではなく常に未来も見据える奴が頭 じゃなきゃつとまらない」
歩きながら美月とその周りに聞こえるようなボリュームで話す。
「お前は人を動かす才がある。今後のことはよく考えなさい」
「さっきから本当にうるさいジジイだな。そんなに元気なら俺より長生きしそうだし、俺が死んだら骨拾ってくれよ」
まさか天下の北白川組会長をジジイ扱いする輩が存在するとは思いもしなかったが、孫を溺愛する祖父なら許すのだろう。
美月は場を壊すようなことは言いたくないうえに、好意を向けている相手が目の前にいるのだ、こういうことは言いたくない。
だが言わずにはいられないほどに怒りが込み上げていた。
「ジジイに孫の骨を拾わせてどうする、命 大事にしろ。じゃあまたな、美月」
そう言い残して美剣は用意された車に乗り、それを組員一堂が送る。
一部始終を見終えてかは、満月は美月を見た。
肉親への怒りに満ちた彼の表情を見るのは初めてだったが、中々可愛いと思ってしまった。
そんな満月に気付いた美月は少しだけ安心していた。
こんな強面幹部のやりとりに微笑ましい表情を浮かべる満月なら不安はいらないのかもしれないと感じた。
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