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第35話 跡目争い

美月達も組員達に見送られ、愛車の高級外車で葬祭場からは出たが、直ぐに後を着けられていることに気付くと逃げるために行動を開始した。 美月はトランクから荷物を取り出すと、満月に差し出した。 「これから適当な店に入る。これに着替えて指示通りに動け、満月」 差し出されたものは、満月が一生縁がなさそうなハイブランドのジャケットとパンツだった。 「スーツはそのまま捨てろ。持ってると目立つし邪魔だろ」 満月には状況が分かっていなかった。 町屋はそんな満月に説明をした。 「これから若頭美月さんを殺そうと組長派の組員が襲ってきます。貴方は美月さんの義兄弟と認識され弱みとなります、スマートフォンに合流先を送っておきますから、バレないように。後で落ち合いましょう」 要するに組内部の跡目争いの火種を北白川組会長美剣が撒いたことに気付いた満月の顔色は悪くなった。 たかが誰が跡目を継ぐかの問題で、こんな危ない命の取り合いをする極道(ヤクザ)という世界なのか、孫にこんな真似をさせる美剣が心底怖い人だと感じた。 「……お二人はどうするんですか」 「俺も着替えてから、奴らを撒く。町屋も顔が割れてるけど、一応はじいちゃんの元秘書だし俺と満月よりは安全だろ」 「私は他にやるべきことがありますから別行動です。私が弱みになりそうなら切り捨ててください」 町屋は随分とあっさりそう述べる。 満月もそう言うべきなのだろうかと考えたが、美月と同じ世界で同じものを見たいと誓ったのだから言うべきではないと思った。 「満月君の武道用具一式は信用できる部下に指示場所に運ぶので安心してください」 適当な場所に路駐をし、三人で適当な喫茶店に入った。

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