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第36話 変装
適当な時間に、美月は満月の腕を掴みながらトイレに引っ張っていく。
一般人には上司に怒られて場所を変える部下のように見えるだろう。
北白川組若頭の美月を知るものなら、義兄弟を性欲のためにトイレで使う、そういうように見えるだろう。
しかしトイレから出てきたのは大柄のインテリ風の眼鏡男、そして時間を置いて出てきたのは線の細い高校生だった。
インテリ風の大柄な眼鏡男と線の細い高校生は変装した満月と美月だった。
二人を確認して店を立つ町屋は心配よりも、あまりの変わりように笑ってしまった。
流れるように二人は喫茶店を出て行った。
それから美月は今どきの高校生のように歩きスマホで文字を打ちメール送信した。
満月に指示したのは、自分がパトロンをしている画家赤神 志乃舞 のアトリエだ。
美月の指示には志乃舞が絵画教室で使用する画材を購入し、バレないようにアトリエに向かえ、とだけ書かれてあった。
美月は満月の学生服ブレザーと学校指定のスラックスをみにつけ、後ろに流した髪を下ろしただけだったがどこから見ても美月には見えないだろう、笑顔が美しい今どきのイケメン高校生しか見えない。
こういうとき実年齢に見えないことが役立つなと美月は思った。
美月は準備中のスナック月夜に入っていった。
「こんにちは、月夜さん」
あまりの美月の変わりように、月夜はボーゼンとする。
「これから貴方を安全な場所に案内しますので、北白川組会長の部下を名乗るものの車に乗ってください」
「……はい」
「嫌だな月夜さん、満月は元気です。心配しないでほしいな」
それから美月は満月に指示を送ったのと同様に画材用意品を買って、荷物を背負ってアトリエに向かった。
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