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第37話 赤神志乃舞

満月が赤神 志乃舞(アカガミ シノブ)のアトリエに到着したとき、彼はキャンバスを貼る作業をガレージでしながら辺りに不審な車や人がいないか確認をしていた。 「君が夜霧 満月君かな。本当に高校生には見えないプロポーションだね」 今着ているスーツは動いやすいものの身体にフィットする素材を使っているらしくボディラインがくっきりしている。 美月同様志乃舞は満月の身体をじっくりと見てくる。 「北白川さんは時間を開けてくるらしい。一応は君も狙われてるんだ、アトリエの中に入ってて」 満月はまだ一言も話していないのに、察して色々としてくれた。 「君は今日画家の赤神 志乃舞が開いた絵画教室にきた裕福な大学生。時間はありそうだし本当に教えるから、教えた通り描いてみるといいよ」 極道(ヤクザ)の跡目争いに巻き込まれている今、何故この人はこんなに落ち着いていられるのだろう、そう思いながら絵を描き始めた。 「おー、中々上手いじゃないか。満月君はセンスあるよ」 志乃舞は満月が描き上げた彫刻のデッサン画を見てそう言った。 「ありがとうございます」 褒めてくれた志乃舞に満月は、表情を隠しながら感謝を述べた。 「君は素直で良い子なんだね。どんな人でも描く絵で大体性格が分かるものなんだ」 「そうなんですか」 志乃舞は満月の描いたデッサン画の線を指さす。 「見えるものを見えるようにきちんと描く人は、伝えたいことを真っ直ぐに伝えようとする人。真っ直ぐということは素直だし正直な性格といつ証拠だと僕は思う」 すると志乃舞は満月が座る正面のキャンバスに向かって言う。 「ぼくが描いた絵をみてみるかい」 満月の歳でプロの画家が描いた絵画は美術の授業でしか見たことがないものだろう。 その人の世界の一部を知りたくなった満月は頷いた。 キャンバスにかかった布を取ると人物と周りの風景が描かれてあった。 淡い色で描かれた人物は北白川美月だった。 「僕はへそ曲がりだから、見えた景色よりも淡く表現してしまうんだ。色をのせすぎてしまうと僕の見ている景色ではない気がしてね。失敗作になる」 淡い色で色付けをされていても存在感は際立つ不思議な絵画だった。 「……とても綺麗ですね」 満月はそれしか言えなかった。 この人はこんなふうに美月を見ているのだと思うと、胸に針が刺さったかのようにチクリと痛んだ。

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