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第38話 安売り顔
満月は志乃舞が描いた美月の絵画から目が離せなくなってしまった。
自分が見ている生き生きとした美月ではないからか、志乃舞にはこんな表情を見せるのかと思うと胸が痛むのだ。
「おいコラ満月、返事しろ〜」
目の前に本物の美月が現れて、満月は我に返る。
「……美月さん」
想い人の美月は本当に満月の身を案じてくれているのだと分かるほど、あちらこちらチェックした。
「怪我はないか」
「あ……、はい」
気の抜けたような返事をする満月に安心した美月も気が抜けたように安堵する。
「……さすがに今回も駄目かと思った」
今回もと美月は言ったことに対して満月は疑問を持った。
「前回もあったんですか」
「あったよ。それで俺の父親が大樹 に殺された。表向きは病死だけど、本当は銃 で一発即死だった」
先程町屋から聞いたことは本当だったのだなと満月は悲しくなった。
もしかしたらその現場に美月はいたのだろうか、そう思うとどんなに辛かっただろうと想像した。
「極道 の道ってのはこんなもんだ。この世界は本当につまんねぇよな。……俺の予定では満月を大学まで預かって、なんとか許可とって俺の付き人にしようと思ってたのにさ〜」
美月は普段通りに微笑んで、セットされた満月の髪をクシャクシャにした。
「悪かったな、満月。俺どうしょうもない奴で、お前を守ってやれない」
美月は満月とひっそり関係を綴りたいと思っていた。
だが大樹 の罠にハマり、オジキを殺した田中が捕まり獄中に。
しかし大樹すらこんな形で跡目を継ぐ権力争いが始まるとは思ってもみなかっただろう。
やはり大樹を泳がせていた美剣 が一番の狸だということだ。
一番の気の毒な要因はどう考えても美月だった。
ここでようやく満月が心を奪われた美月の絵画の存在に気付いた。
「満月、お前もやっぱり見る目あるな。赤神に無理やり描かせたんだ、この俺の絵」
美月はその絵画の前に行って勝手に話し出す。
「俺に気がある奴にこんな顔してやると、コロッと落ちやがる」
振り返り満月を見る美月は企み顔だった。
「満月、お前も俺のこの顔好きなのか〜」
美月は気がありそうな人間に誰でもこの表情を見せることを知り、呆気に取られてしまった。
志乃舞は機嫌が直ぐに悪くなる美月を、こんな笑顔にさせる満月は余程大事にされているのだと気付き微笑ましさを感じた。
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