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第39話 ペンキ屋

美月はアトリエに来る前、町屋の部下を使って北白川組の内部情報を入手してきた。 どうやら北白川組は組長派と若頭派、そしてどちらにもつかない会長派の三つの派閥に分かれて争っているらしい。 そして北白川の屋敷は組長派が陣取っているようだ。 若頭派は美月が経営している会社を根城に、美月を探しているとのこと。 だが美月を探しているのは組長派も同じ、姿を現せば命の危険にさらされることになるのは誰でもが気付くこと。 武力的には組長派が有利で、そちら側には殺し屋(スナイパー)が雇われていると聞いた。 比較的安全でいられるのは赤神のアトリエだけだった。 美月が画家赤神志乃舞の援助者(パトロン)をしているのは、組員には話していないのだ。 だがこの場所にいると志乃舞の命も危ないのだ。 「ここに居られるのも短いだろうし、そろそろ移動するか」 志乃舞の(スーツ)を借り着替えた美月は、いつもよりも不格好だった。 「スーツじゃなくてもいいんだけど」 「北白川さんが(トップ)なら、それ相応の格好じゃなきゃ駄目だよ。僕ので申し訳ないけど」 「悪かったな、チビで」 美月は小柄なほうでもないが、最近いつも美月の側にいる満月が異様に大きいので、麻痺していた。 ガレージには貨物用軽自動車、カモフラージュとしてペンキ屋の営業車になりすましていた。 先程志乃舞が張っていた大きめのキャンバスは下地に厚めのアルミを敷いていた。 隠れれば多少の盾にはなる。 ペンキ屋の営業車を手配したのは町屋で、先程合流している。 さすがにバレるのを恐れて作業着に着替えていた町屋は、どう見てもペンキ屋にしか見えない出で立ちだった。 「絶対に顔を出さないでください」 町屋一人の加勢ではさすがに手が回らないので、美月と昔義兄弟の契りの盃を交わしたという、他の組員田町(タマチ)という男が手を貸してくれるようだ。 こうして志乃舞のアトリエを後にした。

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