41 / 59
第41話 サイレンサー
ペンキ屋の営業車にカムフラージュした軽自動車が止まり、満月と美月は息を呑む。
「町屋さんがどうしてペンキ屋で働いているんですかね」
ガラの悪そうな男の声がした。
どうやら組長派の組員に見つかってしまったらしかった。
満月は勢いよく荷台のの扉を開け、弓道に使う弓と矢を持って飛び出し走り出す。
「美月さんを頼みました!!」
町屋は満月に向かってそう言うと、大半の組長派の組員達は満月を追い始めた。
残されたのは町屋と田町を抑える二人の組員、ならば美月だけで軽く倒せる数だ。
美月は脚蹴りを中心に伸していく。
「やっぱ下半身鍛えてる女狐は足癖わりぃな」
田町は遠慮なく美月の足技の感想を述べた。
「田町、満月の加勢してこい」
「はーい」
田町は満月を追うようにビル街へ走り去っていく。
町屋は美月がダウンさせた組員が持つトランシーバーを盗り、美月とともに走り出す。
行き先は美月が経営している会社、若頭派の根城だった。
もう徒歩圏内で走れば直ぐ近くだった。
根城近くのビル街だからこそ、隠れて待ち伏せる輩も多い。
学生の美月は弓道もしていたが、比較的足にも自信があった。
そして拳や腕を使う喧嘩よりも脚で蹴るため足が強くなっていた。
田町がいうように足癖が悪くなったというのもあながち間違いではないのかもしれない。
もしかしたら学生当時よりも足が強くなった気がして、美月自身も驚いていた。
あと少しという距離まで来ていた瞬間、美月の先を走る町屋の身体が音も立てず倒れ込んだ。
慌てながらも美月は町屋の側に駆け寄ると、銃弾で撃たれた形跡があった。
サイレンサーが搭載された狙撃銃、ということは近くに殺し屋 が潜んでいるということだ。
「……っ私に構わず、美月さんは先に」
極道 の世界は人の命が簡単に消えていく。
そんな世界が美月は大嫌いだ。
美月は町屋を切り捨てていくことが出来ず、立ち止まってしまった。
「町屋を助けたかったら、一緒に来てもらいましょうか、若頭」
組長派の組員に捕まった美月と町屋は窓全方位スモーク加工のバン車に乗せられた。
方向的に行き先は北白川組の屋敷だろう。
ともだちにシェアしよう!

