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第44話 辱め

捕らわれた若頭美月は、こんなことは何でもないと平然を装っていた。 だが内心では自分のために犠牲が出ている状況に焦りながら脅えていた。 銃で撃たれ病院に運ばれている町屋を見てしまったことにより、元組長の実父が銃で一発即死をした瞬間がフラッシュバックしていた。 そしてその元組長の実父は美月を庇ったことで死んだのだった。 またあのときのように自分のせいで大切な人が死ぬことになるかもしれないのだ。 もしかしたら今満月も大怪我を負って苦しい思いをしていたら、そう思うと強引に手に入れたことを後悔していた。 やはり自分が欲しいものは手に入らないのだ。 もしかしたらそういう運命(サダメ)なのかもしれない。 「美月、葬式ぶりだな」 ずっと黙っていた美月に組長大樹が声をかける。 いつこの部屋に入ってきたのだろう、気付かないくらい美月は怯えきっていた。 しかしそんな姿を見せたら直ぐ殺さ()れるだろう、そう思いながら強がってみせた。 「あれ、いつ入ってきたんですか組長(オヤジ)。存在感がなさ過ぎて気付かなかったです」 大樹は美月の腹に蹴りを入れた。 美月の身体は横に倒れ込む。 「北白川の実孫だからっていい気になるなよ。お前は会長の孫じゃなかったら若頭なんて張れねぇ弱虫(クズ)だ」 「……それは当たり前ですよ。俺は北白川の家以外に生まれてたら極道(ヤクザ)になんてなってなかったですからね」 美月は蹴られた痛みを堪えながら、言葉を紡ぐ。 大樹は美月に覆いかぶさりながら言った。 「お前は恵まれた環境で育った。俺がここまで上り詰めるのにどれだけ苦労したか、分からねぇだろうな」 「実父を殺した相手が今俺の親父(オヤジ)を名乗ってる環境のどこがなんだよ」 大樹は美月の着ているワイシャツを割る。 ボタンが弾き飛び転がっていく。 「その実父を殺した今の父親がお前を組員の前で甚振ってやる。にとってこれ以上の辱めはないだろう?」 やはりこうなるか、と美月自身思っていた。 美月がこの北白川組の屋敷からマンションに移り住む原因は組長(オヤジ)の視線が嫌いだったからだ。 こんな奴に抱かれるのは死んでも嫌だが、嫌がったらこいつを楽しませるだけなことも分かっていた。 「そんなことが辱めだと俺は思ってないから、どうぞお好きに」 美月は身体の力を緩め、投げ出した。

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