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第50話 貴方のためなら

だが、それに反論するように満月は話を続けた。 「田町さんから聞きました。田町さんが別の組員なのに美月さんの手助けしていて不思議だったんです。だから聞きました、美月さんが田町さんにしたことを、全部」 田町は田中の実弟だ。 今から約十五年前、北白川組会長の孫だと知った暴力団に誘拐されかかり、それをたまたま見てしまった田中は見ず知らずの美月を助け暴力事件が起きた。 当時レスリング日本チャンピオンだった田中が極道(ヤクザ)を相手に暴力事件を起こしたことで、田中は家族ごと非難され社会的に居場所を失った。 美月は武術に長けている田中を側近件用心棒(ボディーガード)として引き取った。 しかし、田町はその当時武術は全くの素人だったため、北白川美月の側に置いていても生きていけないと判断した美月は、町屋のツテで武力衝突の比較的少ない組に引き取ってもらったのだ。 反社会的な暴力団だが、世間の非難から逃れるにはそれが一番安全だと判断した結果だった。 『田町』という名も美月が付けた偽名で、それ用に戸籍も用意してくれたという。 「美月さんは凄い人なんだなって、改めて思いました。たしかに非道かもしれないけど、俺は美月さん個人を優しい人だと思ってます」 美月は自分で優しい人間だと思ってはいないし、そんなことを言われたこともなかった。 「俺はそんな美月さんが好きです。貴方のためなら暴力行為だってするし、人殺しにだってなれます」 十七歳の少年になんてことを言わせてしまったのか、自分の側になんて置くべきではなかったと思った。 その反面、好きな相手にここまで言われ思われたことがなかったので、嬉しくもあった。 「お前のためなら、俺も……何でもしてやるよ」 きっと美月はなんでもないという表情で言っているんだろう、そう思いながらも満月は想い人を確認の念で見た。 「まさか、美月さん。照れてますか?」 「大人を(カラカ)うなよ、……バカ」 改めて照れた美月を見れた満月は、とても嬉しそうな笑顔をみせた。

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