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第51話 美月のマンション
「もう、ここには帰ってこれないと思ってたのになぁ」
部屋の鍵を開けながら美月はボソリと呟く。
様々な雑務を終えた美月がマンションに帰れたのは、騒動が鎮まった四日後の夕方だった。
マンションは元々大樹所有していた物件だったが、美月名義の物になりそうだ。
このマンションに移り住むようになった原因は大樹達からの視線が嫌だったから。
美月は幼い頃から容姿端麗で、無自覚に垂れ流れる色気に当てられた者達の餌食となっていた。
極道 一家の長男で、襲われたと言えば祖父 がカチコミに出向いてしまう。
流石の美月もそれでは不味いと思ったので、襲われたことをひた隠しにしていた。
そんなある日、美月の自室に酔っ払った大樹が入り込み、そのまま襲われた。
父親を殺した相手にいいように身体を弄ばれたショックで塞ぎ込んでから、大樹だけでなく美月の色気に充てられている大樹の義弟達の目が気になり、土下座して屋敷を出たいと訴えた。
ようやく一人になれる空間を手に入れたが、マンションの名義は北白川大樹、きっと何かあると思い、町屋に頼み込んで調べてもらった。
出てきたのは十台以上の盗聴器に隠しカメラだった。
美剣の命令で渋々と大樹はそれ全部を回収させた。
その後マスターキーも忘れずに回収し、ようやく美月は休まる家を取得した。
それでも寝室から風呂場が見える悪趣味な部屋が嫌で、いつかマンションでも建てて優雅に暮らそうと思っていたのに、仕事が忙しすぎてマンションを建てることも引っ越しすらできない十年を過ごしていた。
この数日間北白川組の屋敷でシャワーを浴びたものの、嫌な思い出があるため心も身体もスッキリすることはなかった。
満月は部活で遅いだろうな、ならば久しぶりにスーパー銭湯でも行きますか。
そんな気分になった美月は適当に着替えてから、高級外車を下町まで走らせた。
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