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第52話 その後の満月
満月は弓道部を辞めた。
辞めたとはいえ、弓道部強豪校は満月を『はい、そうですか』と辞めさせるわけがない。
しかも部長が故直ぐに辞めることはできず、次の部長引き継ぎをするまでは末席に加わり稽古をすることになった。
律儀な満月は組長 と若頭 の跡目争いの騒動が終わった次の日当たり前のように学校に行った。
勉学にも部活にも真面目に励む優秀な模範生だった夜霧 満月が殴られた跡を幾つも作った顔で学校に姿を現したとき、心配になったクラスメイトや周りの生徒達は何があったと聞いてきた。
「ただの喧嘩です」
爽やかな顔でそう言われ、反論し聞き直せる者はいなかった。
ただ校長と教頭と担任、そして部活の指導員には話さざる得なく、個人的に連絡を交換してしまった北白川美剣に満月は助けを求めた。
学校側は急に右翼の大物との関係ができてしまい、ただただ恐れおののきながら美剣と数分の電話会談を終え満月を教室へ返した。
満月は何故部活を辞めたのか、それは本格的に美月を支えるために武術を習いたかったから以外の理由はなかった。
そして自分はもう弓道に励んでも伸びしろはないだろうと思っていたのだ。
昨年の夏の個人戦で全国大会を制覇し優勝していた。
このまま弓道をやっていても成長しないのならばやっていても仕方がない、ならば違う分野の武術を学ぼうと考えた。
それにしても、部長を辞めて四日目に感じたことがある。
自分は部の長は向いていない、使われる側が性に合ってるとしみじみ思った。
美月の指示のもと、彼のために働くのが気持ちがよかった、とそう感じていた。
「……美月さん、まだ帰ってないかな」
早朝北白川組に行ったら暇だという組員、自慢げに人の殴り方を教えてくれた。
彼はボクシングの猛者だと言っていた。
そして『若頭は今とても忙しいらしい』と言っていた。
美月が帰ってきても夜遅いだろう、ならば久しぶりにスーパー銭湯に行って、身体の調子を整えよう。
そう思い、学校から慣れ親しむ下町に直行した。
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