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第53話 あのときの言葉

スーパー銭湯のエントランスで満月と美月は偶然鉢合わせた。 まるで二度目の再会をしたときのような光景だと思った美月は嬉しそうに微笑した。 満月も嬉しくなって、隣に来た。 「帰っていたんですね」 「あぁ、さっきな」 「お疲れ様です、若頭」 「満月にその呼ばれ方はしたくないぞ」 「一応は弟分ですから」 「俺は義弟と寝たくねぇかなぁ……」 美月はさらっと言葉を漏らすと、満月は慌てて辺りを見回した。 下町のスーパー銭湯には満月を知るものが多いため、一応は関係を隠しておきたかった。 「美月さん、そういうこと公共の場では言わないでください」 「おぉ、マー坊じゃねぇか!!」 満月は声をかけられ振り向くと、幼い頃からお世話になっている年寄りがいた。 「おじさん、お久しぶりです」 「月夜さんから聞いたんだ、マー坊がこの兄ちゃんに世話になってるって。兄ちゃんも最近見掛けなかったから、おじさん寂しかったよ〜」 お世話になってはいるが、自分も美月さんと顔を合わすのは久しぶりだなと思った満月は、二人のやりとりを眺めていた。 「おじさんが月夜さんのお店を教えてくれたし、言う通り多少の手助けもできたし、おじさん的には安心でしょう?」 「あぁ~、安心だ安心!!そうだ、お礼に風呂入ったら月夜さんの店で一杯しないか?」 「車で来てるんで、飲めないですけど。それでいいならおじさんと話したいかな」 満月の知らない間にこの二人は仲良くなっていた。 そういえば借金取りから助けてくれた、あのときの美月の言葉を思い出した。 『俺の大事な友達が月夜ママを守ってほしいって頼まれてるんだ。出来たら今後も手出ししないでくれると助かるかな』 あの友達というのがおじさんだったことに気付いた満月は、自分達母子があるのは支えてくれる人達がいるからなんだと感謝の念で胸がいっぱいになった。 「美月さん、おじさん、ありがとうございました」 この二人が出会うことなく自分達が過ごしていたら、そう思うと言わずにはいられなかった。

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