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第55話 成立しない等価交換
部屋に入る間もなく玄関に鍵を掛けたタイミングで、満月と美月は口付けを交わした。
軽い口付けだったが、次第に少しずつディープキスに変わっていく。
クチュクチュと音を立てながら舌を絡み合わせながら吸うと、形のいい美月の唇からの唾液が垂れる。
「へぇ、……キス上手くなってんじゃん」
俺以外の奴とでも練習したのかと、そう続けようとしたが、それを遮るように再度唇を重ねてから放なれた。
「どうしたら俺からの愛が美月さんに伝わるか、ずっと考えてました」
その結果がこれならば、キス百点満点中の百二十点を付けたいと思った。
お返しだと言わんばかりに満月の制服ネクタイを美月は引っ張りながら、ワイシャツからでも見えそうな首筋に吸い付きキスマークを付けた。
「俺を愛する満月への証、見える位置に付けといた」
学校に行ったら騒ぎになるだろうが、満月に興味のある者を排除したいという、美月の独占欲だ。
やっと顔の殴り合った跡が消えかかっているのに、新しく鬱血跡を首筋に付けられた満月は、それでも嬉しそうで、少々照れながら言う。
「俺は貴方のものだから、何されたって嬉しいです」
歯が浮くようなキザな台詞も言えてしまう満月が末恐ろしいと感じるのは、彼に好意を感じているからなのかと思ったが、きっと違うのだろう。
美月は厄介な奴に骨抜きにされたなと、今になって自覚した。
「満月は俺のものなら、等価交換で俺は何をお前に捧げればいいんだよ。お前は俺の何ほしい?」
美月は相手が誰であれ、身だろうと心だろうと自分を捧げる気は更々持ち合わせていなかった。
「なら、美月さんを愛する時間を俺にください」
またキザなことを言う彼に、美月は全身をあずけてこう言った。
「俺を愛する時間なんて、そんなのお前にしかやる気はないから。思う存分にやれよ、満月」
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