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第58話 手にした幸福感

満月は人に興味を持ったことは、この十七年間一度もなかったことだ。 クラスメイト達が恋愛の話をする中、何故か自分だけがそんな気持ちに賛同し頷くことが出来なかった。 グラビアアイドルの雑誌を見せられたときもだ。 どうしても『いいもの』と思えなかった自分は何処かおかしいのではないだろうか、とすら考えた。 けれど美月と出会い、彼のことを考えた瞬間に鼓動が速くなる。 美月の身体を見ると、反応してしまう自分。 初恋すらまだだった自分が、美月を好きになり、この人のためならなんでもできると思えてしまう自分は、ようやくクラスメイトが話していた十七歳の恋愛感情というものが理解出来た気がしていた。 そして美月も、好きなものはいつも手に入らないと嘆いていた二十九年間だったが、満月と互いを好き合い、彼と愛を育むために、今まで手にしたいと思ったものが手に入らなかったのならば、仕方がないことだったのかもしれないとすら思う。 好きな相手に抱かれ、ひとしきり愛し愛されたあと、疲れた重怠い身体をその相手に身を任せてウトウトと船を漕いでいる美月は何気なく呟いた。 「……好きな相手に抱かれるって、こんなに幸せなことだったんだな」 こんな幸福感で胸がいっぱいになることは今まで一度もなかった。 「美月さん、眠たいですか?」 「……眠たい」 満月は掛け布団を美月に掛けてから、ベッドから離れようとしたが、腕を掴まれた。 「どこに行くんだよ?……俺のそばにいて、満月」 寝ぼけているのか、美月はいつもより威厳の全くない言い方で見上げてくるので、満月はベッドに戻った。 美月を抱きしめると程よい温かさと香りで満月にも眠気が襲ってきて、そのまま眠りに就いた。

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