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第59話 愛の暴力

次の週から満月は弓道部を辞め本格的にボクシングを習うことにした。 北白川組の若頭美月の義弟として、そして将来隣にいてもおかしくない存在になるために努力しようと誓っていた。 満月がこれから成長するためのことは、将来への投資だと思っているらしく、パソコンで『ボクシング』と検索し調べながら適当にカートに入れゲーム感覚で美月はカード決済をしている。 そして使わなくなった弓道具だ。 母の月夜が買ってくれたという弓道具を思い切って処分しようとしていた満月に、美月は止めに入った。 満月が射った一本の矢が防弾ガラスを貫通しなければ美月が大樹に勝つことはなかったし、月夜も息子()を思い買ったものだと思ったので止めたのだ。 それにまたこの弓道具を持ち道着を着ている満月に美月が声を掛けるように言わなかったら二人は出会っていなかったのだ。 そう思うと処分するのが惜しいと思った。 そして美月はあのとき自分を助けた一本の矢を高額な額縁に入れ部屋に飾った。 「それにしても満月が俺のために極道(ヤクザ)相手に暴力を奮った姿、見たかったな」 あの日田町が名付けた満月の安座名(アザナ)は『北白川の猛戦士(パーサーカー)』、それに恥じぬよう努力しようと思った。 「俺は美月さんを守るためなら、暴力だって、人殺しだって、何だってします」 「愛ゆえの暴力っていうか、お前の愛し方(セックス)すら暴力みたいだったぞ?凄い()かったけど」 「美月さん、……また誂ってますか?」 美月は満月に向かって微笑する。 「お前からの愛の暴力、ちゃんと受け取ったからな」 美月が笑うと、満月は初めて情を交わした澄んだ夜空の美しい月を思い出す。 あの日の綺麗な月は一生満月の心の夜空に浮かび輝いているのだろう。

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