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第60話(番外編)愛故に
満月が美月を大樹から助けられたのは会長の美剣の援助があったからだった。
「美月を助けたいと思うならば、心も身体も強くすることが大事だ。美月は北白川組の頭 になれる脳ミソ を持っているが、腕力は並の男以下。あやつは振り下ろす脚力での戦いが中心、脚を塞がれれば直ぐに落ちる」
美剣は美月 の心配をしているのかしていないのか、大樹の手に落ちたにも関わらず冷静な面持ちだった。
「だが美月はああ見えて打たれ強い。何故だか分かるか?」
満月は美月の強さの正体はまだ理解できていなかった。
「分かりません」
素直に答える満月を満足そうに確認した美剣は話を続けた。
「極道 者としてのプライドが高いだからだ」
確かに美月は極道 は向いていないと言いつつも、普通よりプライドが高いと満月も思っていた。
田中が殺人を犯したあの日、唯一の味方であった満月にも弱音を一切吐くことはなかった。
まぁ、大の大人が未成年の高校生に弱音を吐くことはないだろうが、田中の事件を知ったあと気丈に振る舞う美月の姿を思い出すと、優しい性格の満月は目が潤みそうになる思いだ。
「美月は北白川組 の中に囚われたとしても、あいつは大丈夫だと儂は思っている」
美剣はそう言うが、満月は美月の心は繊細なことに気付いていたし、一刻も早く助けたかった。
満月から見て葬儀場の特別室で見た大樹の印象はあまり良いと思えなかったのだ。
「夜霧、この塀を登ると一階の窓から様子が見れる。合図とともに弓で矢を射れ。防弾ガラスだが脅す音くらいは出せるだろう」
そう美剣の作戦計画では満月の防弾ガラスに矢を射る行為は貫通する予定ではなかった、脅す音が出せればそれで良いと思っていた。
満月は三脚を借り高い塀に下り立ち一階を見ると、美月を甚振っている大樹の姿を見た。
『自分が大樹を殺らなければ』という思いだけで合図を待たず矢を射った。
防弾ガラスが割れた音を聞いた美剣は、とんでもないくらいの大物少年を美月は拾ってきたと歓喜値打ち震える気分を感じた。
二発目を射ったあと、美剣は満月に間を置かず言った。
「夜霧、何があっても美月の言うことをきけ。この儂 ではなく、美月だけの命令をきけ」
自分 に満月の制御はできないだろうと予感したのだ。
惚れた相手ならば満月はどんなことでも聞くこともするのだろう。
「愛故にとはこのことだろうな」
美剣はSP を引き連れて、ゆっくりと美月の囚われている部屋に向かった。
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