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第9話
次の日朝、僕が目の目が覚めとき、椿の姿がなかった。
もしかしたら僕が素直になれなかったから、植物の椿に戻ったのかも、そう思って咄嗟に窓を開けて椿の木を見下ろした。
「あ、冬馬。おはよう!!」
庭から椿の声がした。
椿の姿は庭にあった。
「風邪が悪化する。窓を開けるときは着替えてからにしよう?」
「椿、何……してるの?」
「雪掻きだよ。例え少ししか積もってなくても、誰かさんが庭に出て転んだりしたらどうする?」
「……『誰か』って僕じゃないよね?」
「他に誰がいるの?」
椿は昨日の夜のことは無かったみたいに話して笑うから、僕もつられてた。
やっぱり椿は『植物の椿』だった。
椿に話せば、いつでもスッキリする。
昨日だって素直に話せてたら、今ももっとスッキリしていたかもしれないのに。
僕は体温計で熱を計った。
昨日の重怠さが嘘のように引いてると思ったら平熱に下がっていた。
だから急いで着替えて上着にマフラー、それと手袋をして庭に出た。
「僕も雪掻きやる」
「冬馬は風邪引きだから、休んでて」
「治った、体温計で計ったら平熱だったもん」
「でもぶり返すかもしれないよ」
「椿とやりたいし」
僕は雪掻き用のスコップを雪に刺した。
「雪の下はアイスバーンになってる。冬馬には難しいよ」
「僕だって、やってみれば出来るかもしれないのに」
「……そうだよ。やってみれば出来るかもしれない」
椿は僕を真剣に見つめて話してくる。
「やってみれば出来るかもしれない。思いを伝えたらなんとか出来るかもしれない。冬馬はそう思わない?」
椿は昨日の夜のことを言っているんだ。
だから僕に雪掻きをやらせようと、自分自身がやっていたんだ。
「椿はやっぱり、……あの『椿』じゃないよ!!」
「冬馬、まだ素直になれない?」
「だって『植物の椿』は僕に優しいもん!」
『植物の椿』は僕が話かけるといつも葉を揺らして優しく返事をしてくれた。
『人間の椿』は僕に素直になれと強制する。
「優しくない……、『人間の椿』どうして優しくないの?!」
僕は椿から逃げたくて、家の中に飛び込んで急いでドアに鍵をかけた。
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