14 / 21

第14話 猫、人の姿を取り戻す

僕のネコ耳ネコしっぽの可愛さにやられたらしいトルスは、幻惑魔法にでもかかったみたいにふらふらと近づいてきて、僕の真っ白いお尻から生えている蜂蜜色のふさふさしっぽに触ろうとしてくる。 「これは……まだ神経が通っているのか……?」 「バリバリに通ってるよ!」 しっぽでバチン! とその手を払ってやった。両手は大事なところを隠すので忙しい。 しかもなんなの!? 僕自慢の桃のようにプリッとしたお尻よりもしっぽに興味あるってどういう事!? 「もう一回! あんな軽いのじゃなくてちゃんとキスして! うーんと濃厚なの!」 「お前、スッゴイ事言ってるの理解してるか……?」 顔を赤くして、トルスが天を仰いでいる。 「してるよ!」 「もう猫とは思えないから、俺もさすがに照れがあるというか……その……」 「ごにょごにょ言ってる場合じゃないでしょ! こんな中途半端な状態ヤダ!」 「なんで怒ってるんだ……せっかく可愛いのに」 「呪いが完全に解けなかったらいつかまた猫になっちゃうかも知れないのに、トルス酷い」 「!!! それはダメだ……!」 ハッとしたようにトルスが僕を見る。良かった、やっと正気に戻った目になった。なんなんだよ、もう。 「危うくその魔性の姿に、このままでもいいか、とちょっとだけ思ってしまった……!」 やっぱり! 「よし、あまり経験はないが、全力を尽くす」 「うん! じゃあローグ大好き、愛してる、人間の姿で一生傍に居てくれ! って念じながらキスしてね。すっごーく、濃厚なの!」 「分かった」 ついでに暗示にかかってくれないかな、と念じる内容を強めに指定してみた。 「だがお前も覚悟しろよ」 「何を?」 「裸のお前に濃厚なキスなんてしたら、俺の理性が保たないかも知れないだろ。襲われるかも知れないぞ」 照れ隠しなのかちょっと怒ったみたいに言うトルスに、僕は裸のまま抱きついた。 「いいよー。むしろ望むところだね。愛してるって言葉と体でいーっぱい表してくれた方が、しっかり呪いが解けるかも知れないもん」 僕のしっぽがファサリと動いて、誘うようにトルスの腰にスリスリと擦り付けられる。 「〜〜〜〜っ」 トルスは再び天を仰いだ。 ふふふ。どうだ、もう逃げられないだろう。 僕は猫になって学んだんだ。トルスには直球の豪速球で伝えた方が絶対にいいって。 僕はもう思わせぶりな事も言わなければ、察してね、なんて事も思わない。トルスにして貰いたい事はハッキリキッパリ口に出す。そしたらトルスは困った顔をしつつも、ちゃんと僕の望みを叶えられるように動いてくれるって分かったから。 「僕の王子様、さぁ呪いを解いて」 詰め寄る僕に、トルスは「ちょっと待て」と言い残し、ベッドへと走る。 やだ、恥ずかしい。ちょっと気が早くない? と思ったけど、トルスは毛布を持って戻ってくるとそっと僕の体を包んでくれた。 「目の毒だからな」 素っ裸で大切なとこだけ隠してる僕の魅惑のボディを正視出来なかったのかも知れない。トルスは意外と初心みたいだもんね。 ありがたく毛布を羽織ったら、やっぱり落ち着く。人間はやっぱり服を着てないとちょっと心許なくなっちゃうのはもう仕方ないことだと思う。 「ありがとう」 素直にお礼を言ったら微笑んでくれた。トルスの恋人に昇格した僕はもう、猫の姿じゃなくてもこの優しい笑顔を真正面から見る権利を貰えたらしい。 嬉しくてトルスの顔をじーっと見つめる。トルスも視線を外さずに僕を見つめ返してくれて、僕らはしばらくの時間、ただ見つめ合っていた。 「ローグ」 なぜか、フ、とトルスが笑う。 「お前から言われたから言うんじゃないぞ。本心だから心して聞いてくれ」 「うん……!」 「愛してる。一生傍に居てくれ」 「トルス! ありがとう〜!!! 絶対! 一生! 傍にいるから!」 これはもうプロポーズにも等しい! 目を閉じてチュー待ちの姿勢をとったら、柔らかい感触がそっと僕の唇に触れる。さっきよりもちょっと強く押し付けられるその感触に幸せを感じつつ、薄く唇を開けてトルスの舌を受け入れる気満々でいるのに、なぜかそのまま唇の感触が軽くなって、僕は慌てた。 全然! 濃厚じゃない!!! 逃すもんかとトルスの首に腕を回し、背伸びをしてその唇を追いかけた。 せっかくかけてくれた毛布が床に落ちてしまったのはこの際仕方がない。熱ーーーい、濃厚なキスをする方が大事だ。 「んぅっ」 びっくりしたような声を出してトルスが身を引こうとするから、僕はトルスの後頭部をガッツリと確保した。クシャッとした髪を押さえつけて、頭が動かないようにしてしまえばこっちのモンだ。 驚きで僅かに開いた口に舌を押し込んで、トルスの舌を絡めとる。 「ん……ん、ん、ふ……」 何か言いたいのかトルスが身じろぎするけれど、いっさい構わず僕はキスを続ける。諦めたのかようやく大人しくなったトルスは、おずおずと舌を自分から絡めてくる。もう後頭部をガッツリ押さえてた手にかかる負荷はない。 僕はトルスの舌を自分の口内へと誘うように舌を動かした。僕の中に入ってきた舌をちゅうっと吸って、唇でやわやわと刺激する。 僕基準での『濃厚なキス』をたっぷりと楽しんでから、ようやく僕はトルスの舌を解放した。

ともだちにシェアしよう!