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第7話 新婚はニンジンがハート型
好き、とか
そういうの、よく分からないけど……。
若といると
安心する、とか
喜んでくれると嬉しい、とか
それって「好き」ってことなんだろうか……?
第7話
新婚はニンジンがハート型
ドキドキと高鳴る心臓。
深呼吸して落ち着かせ。僕は抽選機の取ってを握る。
「行くよ~っ……。それっ!」
気合いを入れて回す。受け皿にコロンと玉が落ちた。
「はい、読んで」
律さんに言われて、玉に書いてある番号を読み上げると、それに従って、若がカチカチと扉のダイヤルを回す。
「おぉ、今回はまた甘いの引いたなぁ」
「えっ!? どんなのどんなのっ!?」
律さんの反応からして、さほど変なのではなさそうだ。
「ふふん、内緒。ほら行って来い」
律さんに押されて、扉の前に立つ。律さんは若に何やら耳打ちした。
「……えぇ、わかりました」
「えっ、何なにっ!?」
気になって聞くと、お前はいいから、と律さんに言われた。
「では、参りましょうか、結惟様」
若に手を引かれて扉をくぐった。
目の前に広がるのは、真新しいキッチン。
僕は真っ白なフリフリエプロンを着けて……どうやら夕飯の支度をしているらしい。
コトコト煮える鍋と、横にシチューの素。
「……今夜はシチューなんだ」
壁に掛かっているカレンダーには、今日の日付の所に“結婚一ヶ月目”とハートで囲って書いてある。
「……ふーん……今回は新婚さんなんだ……」
しばらく待つと、ピンポンとチャイムが鳴る。
玄関へ出ていくと、スーツ姿の若がいた。
「若っ、おかえりなさいっ」
ギュウと抱きつくと、若は“ただいま”とキスをしてくれる。
う~ん! 今回のはいい感じ。
律さんに選ばせると、たいてい変なのばかりだから、自分で選んで正解だったと思う。
若からカバンを受け取り、奥へ戻ろうとすると、若に止められた。
「結惟、いつもの質問は?」
「えっ……?」
いつもの質問?
「ほら、お決まりの」
「あ……」
お決まりの質問って、ひょっとして“アレ”?
「えっと……おかえりなさい、あなた。お風呂にする? ご飯にする? それとも……ぼく?」
自分で出来る、精一杯の可愛らしさで言った。
出来たばかりのシチューを盛り付けて、夕飯にする。
「はい、あ~ん」
ハートにくり貫いたニンジンを若の口へ運ぶ。
「うん、美味しい。結惟は料理が上手だね」
若が誉めてくれて、思わず顔の筋肉が緩んでしまう。
あぁ、いいなぁ新婚……。やる事が甘い。
夕飯の片付けをしていると、若が後ろから抱きついてきた。エプロンの隙間から手を差し入れて、胸を撫でる。
「ちょっ、ちょっと若っ……」
こんな所じゃ恥ずかしいよっ……。
「結惟……今夜、ね?」
耳元で囁かれると、心臓が跳ねる。
僕はコクリとうなずいた。
「お風呂、一緒に入ろう……?」
あぁもぅ、だから耳元はダメだって……!
「クス……可愛い、結惟……。好きだよ」
「うん……僕も。若大好き」
唇が甘い言葉をつむいだ。
何気に、じゃれあいながらもお風呂の中で一回済ませる。
「結惟、パジャマの代わりにこれ着て」
そう言って差し出されたのは、フリルのいっぱい付いた可愛らしい薄ピンクのエプロン。
「うん」
安請け合いした後で、待てよ、とよくよく考える。
パジャマの代わりにエプロン……? って、まさか……。
「あ、もちろん下着はいらないよ」
……裸エプロンじゃないですかっ!!?
気が付いて、顔から火が出そうな程に赤面する。
何でまた、こんな変なこと思いついたんだろう……。あ、ひょっとしてさっき律さんが若に言ってたのってこのこと!?
や、やられたっ!
「結惟、どうしたの?」
若が早くと急かす。渋々、素肌にエプロンを着た。
「……これでいい?」
「うん、可愛い」
上機嫌に若は言う。そのままお姫様抱っこされて、寝室へと入った。
綺麗にシーツの敷かれたダブルベッドの上に、そっと降ろされる。
「わ、若っ……ん……」
言葉をつむぐ暇もないほど、若は唇を重ねてくる。
ねっとりと舌が絡むと、ゾクゾクと心地いい快感が身体を駆ける。しばらくして、若の唇は名残惜しそうに離れていった。
「……結惟、感じてくれてるんだね」
「あっ……」
「結惟はキスが大好きだから」
冗談っぽく笑いながら、エプロンの布越しに僕のペニスをタッチする。
「あっ……ん、ダメ汚れちゃう……」
「もう遅い」
言われて恥ずかしくなる。
キスしながら、布越しに触れられるのがもどかしい……。さわさわ、と直にお尻を撫でられ、むず痒いようなもの足りないような感じがする。
「……っあ……」
言葉もなく、割れ目を滑るように若の指が中に潜りこんでくる。
さっきお風呂でしたものが、まだ中に残っていて、あまり痛さは感じない。
「逃げないで」
「だっ……て」
ぐっと引き寄せられると、膝立ちの僕に逃げ場が無くなってしまう。
「ふっ、あ……」
「気持ちいい? 前もこんなに濡らして……エプロン汚れちゃうね」
笑いながら若が言う。
「やっ……言っちゃやだっ」
「ん?どうして?」
――結惟様は言葉での反応が一番いいんですよ。
耳元でそう囁かれて、恥ずかしさのあまり涙腺が緩む。
そんなの、自分が一番よく分かってる。
悔しいけど、大好きだもん……。若の声は……僕の身体の奥の性感帯を擽るから。
「あっ……若っ……出ちゃうっ……!」
悲鳴に近い声を上げて、僕は達する。けれど出した精液はエプロンに阻まれて、飛び散ることなく下に垂れた。
「おやおや」
若はそのまま膝に溢れた僕の精液を指先ですくう。
「ね、ねぇ若……エプロン脱ぎたい……」
「駄目。今夜はこれでするって決めたから」
「ふえっ!? ……ん、あっ……」
濡れて気持ち悪いエプロンをたくしあげられて、そのまま若のペニスの上に導かれる。
下から突き上げるように刺さる若のペニスに、身体が疼いた。若が少し身体を揺らすだけで、上の僕は大きく揺さぶられて、どうしようもない声が溢れる。
「あっ……ふ、んんっ」
抱きついても、エプロンに阻まれて身体が触れ合わない。
「若……あ、う、後ろからっ……」
口から溢れる言葉が告げる。
今の状態で、一番肌を露出出来ている場所と言えば背中しか思いつかなかった。
「後ろからして欲しいの、結惟?」
うなずいて、返事にするつもりだった。後ろからしてなんて、恥ずかしくて……。
「ちゃんと言葉にして」
「えっ、えっ!?」
「ほらっ」
「っ……あぁん」
若が下から突き上げてきて、早くと急かす。
何だよぉっ! 全然甘くなんてないじゃないかっ!
心の中でそう叫ぶ。
「……て」
「ん、何?」
「後ろから、して……?」
蚊の泣くような声で言った。若はクルリと簡単に体勢を変える。
「っう……あぁ……」
深く深く、若が刺さる。それだけで僕は自然と腰を振る。
「結惟、後ろ好き?」
ぴったりと肌を合わせて若が囁く。
「はぁ……んっ……」
「結惟、腰使って。空いた手で前してあげるから」
言うなり若は僕のペニスを握る。
前後からの刺激に、僕はどうしようもなく腰を振り続ける。
「そう、上手……。気持ちいいよ、結惟」
若がそう言ってくれて嬉しかった。
こんな、狂ったように動き続ける僕に、「可愛い…」と、そう囁いてくれる。
大好き……。
大好き……。
「若ぁっ……好きぃ……!」
涙で上手く声が出ない。けど、伝えたかった。
若といる時が幸せ。
エッチしてる時は、もっと……。
僕が僕じゃなくなる気がする。でも、若が僕の手を繋いでくれているから……。
「あっ!わかぁっ……イクっ、イクぅっ!」
大好き。
これを恋と呼ぶのかは分からないけれど、若が大好き……。
次の日、朝ごはんにハートのニンジンが入ったシチューが出てきた。
「……これって……」
「そう。昨日お前が作ったやつ。二人が頑張ってる隙に、ちょっと入って取ってきた」
当然の如く言う律さんに、シチューを吹き出しそうになる。
「うわっ、最低っ! 不法侵入だよ律さんっ!」
「いいの~。あんな世界に法律もクソもねーよ」
……うう、そうなのかも……。
ため息をついてシチューをすくう。と、ハートのニンジンが見えた。
「……若っ、はい、あーん」
僕は昨日と同じノリで若にニンジンを差し出した。すると……。
「昨日も思ったのですが、好き嫌いはいけませんよ結惟様。ちゃんとご自分で召し上がって下さい」
そう言われた。
律さんが大爆笑する横で、僕は、やっぱりあの時だけか……と頭を垂れた。
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