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第8話 嘘つきな二人組

 当たりが悪い日って、本当に当たりが悪くて。  律さんは見てるだけ、って……。それは僕の勝手な思い込み。  どうせなら、思い込みであって欲しかった……。  第8話  嘘つきな二人組 「ただいま」 「お帰り」  部屋に入るなり、律さんが抽選機を用意して待っていた。 「はい、回して」 「回してって……せめて紅茶の一杯でも飲ませてよ」  ため息をついて言うと、律さんは 「若は腹減ったよな」  と若に絡み出す。 「いえ……、まだ平気ですよ。結惟様が紅茶を飲まれるくらいは……」 「でも減ってんだよな!? “はい”って言え。」 「ちょっとっ、それじゃあ恐喝じゃない!」  律さんと言い争っていると、 「……では、先に引くだけ引いて頂いて、お茶をした後に参りましょうか?」  若がにっこり微笑んだ。 「じゃあそういうことで……」  ガラガラと抽選機を回して玉を出す。律さんは番号と本を見比べた。 「ほー……また面白いもの引いたなぁ」  律さんの笑い方からして、あまり嬉しくない感じ……。 「若。なかなか飲みきれないような、熱々の紅茶入れて……」  せめてもの時間稼ぎに言った。 「――様、結惟様」 「……んー?」  若に呼ばれて目が覚める。  僕はフィーリングミュージックがゆったりと流れるベッドの上で眠っていた。 「終わりましたよ? いかかでしたか?」 「……あ、疲れが取れた感じです」  どうやらマッサージのお店らしい。  店員である若がにっこり笑って着替え室に通してくれる。 「うーん……どこが変なんだろう…」  僕は着てきた服に着替えながら、用意してあったペットボトルを口に運ぶ。  ……もしかして、目に見えないだけで室内に監視カメラとかあるのかも。  隠し撮り企画?  なんて単純に考える。受付に行くと、律さんがいた。 「お客様はスペシャルコースのご利用で……お会計3万円になります」  ……マッサージで3万円って、高くないですか?なんて思いながらポケットから財布を……。 「……あ、あれ……」  僕は身体中ごそごそと探る。  な、な、なーいっ!! 財布がないっ!! 「おや? いかがなされましたか?」 「いや……あ、僕鞄とか……」 「そのような物はお持ちではいらっしゃいませんでしたが……?」  うっそぉ……! どうしようっ!?  全身から滝のように汗が流れる。 「あ、あの、付けとかって……」 「出来ません」  ピシャリと言われる。 「……金、持ってねぇの?」 「いや、あの……財布、忘れたみたいで……」 「はぁ? 払ってもらわないと、うちも困るんだけど……?」  というか、口調変わってません……? 「もちろん払ってくれるんだろうな? その身で」 「…………はい?」  その身で支払う……と申されますと……?  律さんは店の奥から若を呼ぶ。 「おい、若。コイツ金持ってねぇんだって。しょうがねぇから身体で払わせようぜ、3万円分」 「おやおや、それはしょうがないですね」  若は穏やかに笑ってるけど、笑える状況じゃなさそう……。  逃げだそうと後ずさる腕を、律さんに掴まれた。 「逃げんなよ。きっちり払ってもらうからな。3万円分のセックスで」  さも楽しそうに笑う。  どうやら……今回は本当に当たりが悪いかも……。  泣きたいのをぐっと堪えた。  さっきマッサージされたベッドの上に再び押さえつけられる。 「ちょっ、待って……!」  うるさい唇を塞がれる。と、途端にガクンと力が抜けた。  何で……? いつもしてるキスと同じなのに……。 「……あぁ、クスリが効き出した様ですね」  ……クスリ、って? ……まさかさっきのペットボトル……!! 「3万円分、しっかり身体で支払って下さいね。結惟様」  言葉とは裏腹な、天使のような微笑みが近づいてくる。  手際よく服をはぎとられ、裸にされた。  唇に、胸に、絡み付く若の温かい舌に、吐息が漏れる。僕のペニスの先は、既に熱を帯びてきていた。 「……おやおや、もうこんなに反応させて……可愛いらしい」  若は指先でペニスの先をつついて遊ぶ。  その手つきが、もどかしい……。 「……あっ、やだぁ……」 「何が嫌なんです? 喜んでるじゃありませんか」  笑って見られていると、恥ずかしくてどうしようもなくて、足を閉じようとしてしまう。  だけど若はそれを許してくれない……。  冷たいジェルの感触に身体がビクリと跳ねた。 「……ずっと、触れたいと思っていたんですよ。結惟様をマッサージしている間中、ここも触りたいと……」 「っあ……」 「今度はこれを……気持ちよくして差し上げましょうね……?」  ヌルヌルとして、強弱のある手でしごかれると、いつもより敏感な僕の身体はすぐに達してしまう。  吐き出した精液を若の口が受け止めて、飲み下す。  でも若はまだ足りない……という感じで僕のペニスを離そうとしない。 「はっ、あ、やっ、は、なして……!」  連続でなんて苦しいと、僕は渾身の力で拒否する。若は困ったようにため息をつく。 「律さーん、ちょっとー。結惟様が暴れるので押さえていてくれませんかー」  と、何と若は律さんを呼ぶ。 「あー? しゃーねぇなぁ……」  律さんは部屋に入ってくるなり、僕の両手を掴み上げると頭の上で押さえつけた。  身動きが取れずに、僕は若の行為にひたすら身を捧げる。 「――っく、イくっ……!」 「おっ……と」  若の口は何度も僕の精液を受け止める。 「……つーか飲みすぎじゃねーの若?」  それを見て律さんが笑う。 「だって、せっかく結惟様が出して下さるものですから、溢したらもったいないでしょう?」 「ククッ……お前相当スキモノだなぁ」 「……あっ、やだぁっ……――!」 「あっ……律さんのお喋りに気を取られたせいで、せっかくの愛液が溢れたじゃないですか!」 「俺のせいかよ。まぁまだ3万円には足りねーだろ。も少し頑張って出してもらわないとなぁ」 「そうですね。3万円分ですからね」 「……っく……うー……」  真上から二人に見下されて、罵声を浴びせられて、我慢していた涙が一気に溢れだす。  何で……、何で僕がこんな目に……?  悔しいとかじゃなくて、情けなくて……。 「あーあ。若がいじめるから泣いちゃったじゃん」 「私のせいですか? 律さんが強く押さえすぎてるからじゃないですか?」 「……つーかそろそろ手コキも飽きたんじゃねーの?」 「あ、そうですね。じゃあそろそろ入れましょうか」  当然のように言われて、当然のように若のペニスが中に入れられる。  疲れきったはずの僕の身体は、新しい刺激にまた快感を呼び戻す。 「……若、結惟四つん這いにしろ」 「えぇ」  律さんの指示で体位が変えられる。  四つん這いになった僕の目の前に現れたのは……。 「ほら、空いてるお口でちゃんとしろよ」 「!!?」  返事をする間もなく、律さんのペニスを口に押し込まれた。 「3万円分だからな。このくらいしてもらってもバチ当たんねぇだろ?」 「あっ、ずるいですよ律さん!」 「はぁ? お前中入れてんじゃねーかよ。俺は口で我慢してやるんだからいいだろ?」  正直、何が何だかよくわからなくて、僕はただ与えられたことをする以外になかった。  若に与えられる快感に絶えながら、律さんのペニスを懸命にしゃぶる。飲み込めない唾液がジュルジュルと音を立てた。 「そうそう……なかなか上手だぜ、結惟……」 「っふ、ん、は……あ……っ――」 「あぁ……またイかれてしまって……結惟様は下のお口もお上手ですね」 「……っく……ねが、い、だから………も、許し……っはぁん!」  僕はぼろぼろ涙を流しながら、必死になって懇願する。  このままだと、本当にイキ殺されてしまう気さえした。 「……だってよ、若。どうする?」 「そうですね。名残惜しいですがしょうがありません」  二人とも残念そうに言う。 「じゃあ終わりにしてやっから、ちゃんと二人共イかせろよ」  律さんに頭を押さえつけられて、喉の奥まで激しく突かれる。  若は後ろから、僕の感じる場所を容赦なく突き上げてくる。 「……んぐっ!! ……んーんぅ、あ、ハゥ、ん……!」  息も出来ないくらい苦しくて、涙と汗が身体中に絡みつく。  何が何だかわからなくて、抵抗も出来ないまま、二人に揺さぶられて……。前にも後ろにも、ほぼ同時に熱い液を感じる。  ペニスがズルリと引き抜かれると、飲み込めきれなかった精液が、前からも、後ろからも垂れた。  やっと解放された時、僕に残ったものは、  抜け殻になった身体と、  粉々になったココロと、  いつまでも残る高揚感……。 「……いやぁ、楽しかったな」 「そうですねぇ」  笑う二人に、僕はむすっとして紅茶をすする。  何が楽しいもんか。あれじゃ強姦じゃないか……! 「って言うか、何で律さんが交じるのさっ!?」  だいたいあれは父さんが作った、僕と若のAV撮影用のパラレルワールドじゃなかったっけ!? 「チッチッチ、甘いな結惟。俺が交じらないとは一言も言ってねぇぞ」 「ぅ~……」 「まぁまぁ。結惟様もノリノリでしたし、いいじゃないですか」  ……いいのかっ!? ……いいのかなぁ……? 「何だ結惟。気に入ったのか、3P」 「べべべっ、別にっ、そんなんじゃ……!」 「……困りましたねぇ。まさかこれからは律さんと、結惟様の精液をかけて争わなくてはならないのでしょうか……?」  ……いやいや! そんな心配はいらないっ!! 「にしても、よかっただろ? サギシマッサージ店」 「……そのネーミングセンスどうにかならないの……?」  まぁ、父さんのセンスならそんなものか……。 「どうにかって、サギシは律さんのセカンドネームじゃないですか」  …………はい? 「えっ……、律さん“詐欺師”って名字なの……」 「アホ。“佐岸”だよ。佐岸 律。常識だろ」  いや、そんな常識知りません……。  っていうか、誰……。発音や漢字は違えど、律さんにこんなピッタリの名字つけたの……。  ため息が、紅茶の湯気を揺らした。

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