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第11話 はらぺこアンドロイド

 若は僕のことを気にかけてくれていて、すごく優しい。  だけど、そのせいで自分のことは我慢しちゃったりする。  苦しいなら言ってくれたらいいのに……。  若が僕を大切にしてくれる様に、僕だって、若が大切だよ…。  第11話  はらぺこアンドロイド 「う~ん……」 「大丈夫ですか、結惟様……?」  冷えピタを頭に乗せて唸る僕を、心配そうに若が見る。  季節の変わり目のせいで、僕はインフルエンザじゃないかってくらいの風邪をひいた。  頭は痛いし、クシャミは出るし、何にしても寒い。 「……なっかなか熱下がんねぇなぁ」  マスク姿の律さんが体温計を見ながら言う。 「この調子で熱下がらなかったら死んじまうかもな」 「……律さん?」  冗談半分で笑う律さんを、若はにっこり笑顔で見る。だけど後ろは明らかなブリザード……。 「嘘だって。まぁ薬飲めばそのうち治るだろ」 「うーん……」  って言っても、本当にしんどいんだよ……?治るのかなぁ……?  ぼーっとしていると、また眠りそうになる。 「若、お前も薬飲んでおけよ」  律さんが若にそう言ってる。  ……薬?  薬って……何?  ふと目が覚める。  何だか身体が軽い。薬が効いてるのかな……?  暗い部屋の中で若がいるのが分かった。  じっと僕を見つめたまま、若は動かない。 「……若?」  呼んでみても返事がない。 「……若?」  身体に触れる。いつもは人の温もりがあるのに、触れた肌は鉄屑そのものの冷たさ……。 「……若っ!」  僕は恐くなって必死に若を呼ぶ。 「……ゆ、い、さま……」  若の唇がぎこちなく僕を呼ぶ。 「若……何? どうしたの!? 若っ、しっかりして!」  僕は何が起こったか分からず、若の身体を揺さぶる。 「……結惟、どうした?」  扉が開いて律さんがやってくる。 「律さん、どうしよう、若がっ、若が変なの!」  律さんは若の顔色を確認すると、舌打ちを一つした。  若の顔を無理矢理上げさせると、ポカンと開いた口の中に、薬のカプセルを割って澱んだ液体を注ぐ。そして、若の着ているシャツを捲ると、背中を叩いた。 「……何……してるの?」 「スイッチ見てんだよ。……あ、ほら落ちてるじゃん」  当然の様に律さんは若の背中に内蔵されたボタンを押す。  ビクッと電気が入った様に若の身体が揺れた。 「あ……あぁ、結惟様、気分はいかがですか?」  何事もなかったかのように笑う。 「……若? あ……元に戻った……」  僕は安堵のため息をつく。 「“あ、結惟様”じゃねぇ!若、お前薬飲んでねぇだろ」  律さんが珍しく若に声を張り上げる。 「言っただろうが、結惟から精液貰えないなら、ちゃんと薬飲め。でないと今みたいにすぐショートするぞ!」 「だって不味いんですもん」  シレッと若は答える。はぁ~……と律さんはため息をついた。 「結惟は? ……とりあえず熱下がったみたいだな。何か食うか?」 「あ……うん」  律さんはお手伝いさんを呼ぶと、手早く食事を用意させる。  眠っていたから時間の感覚が曖昧だけど、まだ深夜ではないらしい。 「ちょうどいいから若も薬飲め」  律さんは若に薬を差し出す。若はそれを渋々飲み込んだ。 「……結惟様の精液の方が美味しいのに」  ……うーん……。その感覚はよく解らないけど……。喜んでいいのかなぁ……?  はははっ……と苦笑した。  軽く食事を摂って、僕はまたベッドに潜る。 「……ねぇ若……」 「はい」 「さっき……何で止まってたの?」  気になって聞いた。 「エネルギーが少なくなっていた為です。人間が何もしなくとも、ある程度のエネルギーを消費するのと同じです。エネルギーが極限まで減った為に電源が落ちてしまったのです。驚かせてしまい、申し訳ございませんでした」  若は深々と頭を下げた。僕に謝ることなんてないのに……。  あ……最近僕が風邪ひいてるせいでセックスしてないから……。 「若……エネルギー足りないの?」 「大丈夫です。もう結惟様を驚かせてしまうのもいけませんし、律さんに耳元で説教されるのも嫌ですから、きちんと薬を飲みます」  若はにこりと笑った。 「ですから、結惟様は気になさらずに、ゆっくりとお休み下さい」 「……うん」  ゆっくり休んで下さいと言われるものの、僕が休んでる間、若はずっと薬生活なんだよね……?  そもそも、あの薬って何だっけ?  あ、確か精液を固めた物だって……。  精液、誰の……? 誰のを飲んでるの? 「わーんっ!やっぱりヤダっ!」  ベッドから飛び起きる僕を、若は驚いて見ていた。 「嫌だっ、やっぱり薬はダメッ!」 「結惟様? ダメと申されましても……」 「だって、誰のかも分からないのにっ、そんなの飲んじゃダメ! 僕のじゃないとダメっ!」  小さな子供のように、僕はダダをこねる。 「結惟様……お気持ちは嬉しいのですが、今は結惟様のお体が……」 「若が僕を心配してくれるように、僕だって若が心配なの! 大丈夫、元気だもん」 「結惟様」 「若はもっと自分のこと大切にして!お腹減ったなら言ってよ。僕にちゃんと言って。僕のじゃないとダメなんでしょ!?」  僕の説教に、若は少し困ったように「はい」と答えた。 「……若、エネルギー補給しよう」  風邪薬が効いてる、今のうちに……。  風邪だからかな?  いつもより身体が熱くて、いつもより感じやすい気がする……。 「ふっ……あぁっ」  若は僕をベッドに寝かせたまま、僕のペニスにしゃぶりつく。  まるでお腹を空かせた赤ちゃんみたいに、チュウチュウと、甘くないミルクを吸う。 「……結惟様……大丈夫ですか?」 「うんっ……へー……き」  頭クラクラするのは、きっと気持ちいいからだ……。  ウソかもしれないけど、そう感じる。  久しぶりの若の口が懐かしくて、心地良くて、僕は何度目かの白濁を吐いた。 「……結惟様の身体を悪くするものが、ここに含まれていればいいのに……」 「あ……あっ……」 「そうしたら、私がすべて吸い取って、結惟様を元気にして差し上げれるのに……」  残念そうに若は言う。 「ぼ、僕のは、そんなにきれいなものじゃっ……」  ない、と言いたい。  だけど、その否定は若が寄せた唇に消えていく。 「結惟様はきれいです。とても……」  優しい微笑みで、若は言う。 「私にとって、結惟様はただ一つの光です……。とても、愛しい光です」 「若……」  僕も、若が大好きだよ…。  だからね、突然止まって、僕を驚かせないで…?  カーテンの間から朝日が射す。  僕は若の腕にくるまれたまま目を覚ました。 「……あれ?」  昨日の風邪が嘘みたいに体が軽い。頭も喉も痛くない。 「……風邪、治っちゃった?」  ピンピンしてる僕を、律さんも不思議な顔で見る。 「……いきなり元気になったもんだなぁ……」 「ふふっ、昨日のセックスが良かったのかもしれませんね」 「ちょっ……若っ!」  スルリと昨夜の出来事を口にする若に慌てた。律さんがニヤリと僕を見る。 「へぇぇ~。いい汗かいて治ったんじゃねぇの?」 「もぉ、律さんっ!」 「あ。そうかもしれませんね。老廃物が外に出てよかったのかもしれません」 「わ、若まで……」  僕は顔を赤くしながら紅茶を飲んだ。  でも……そうなのかな? 若が悪いもの全部吸い取ってくれたのかな……?  なんて思ったりして。  事実はどうかわからないけど……。次風邪ひいた時にでも試してみようかな……?

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