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第4話 【カーマイン視点】真っ暗な部屋
「エリス、可愛かったな……」
すごく質のいい防具が買えて、エリスはすごく喜んでた。何度も何度もお礼を言って、大切そうに買った防具を両腕に抱く仕草は本当に健気で、抱きしめたくなったくらいだ。
パーティーの金はライアがしっかり管理してくれてたから、エリスの防具を買っても全然問題ないくらい余裕がある。嬉しそうな笑顔のエリスと、明日の待ち合わせをしてからホクホク顔で別れたオレは、宿に近づくにつれ気が重くなってきた。
さっき見たばっかりの、ライアの感情の読めない笑顔が思い出される。
なんなんだ、急に。聖騎士になるとかパーティーを抜けるとか、バカなこと言い出して。
エリスを仲間にするって言ったのがそんなに嫌だったなら、そう言ってくれたら良かったじゃんか。早く誘った方がいいって言うから速攻で話をつけてきたのに、後になってあんな事言うなんて。
悔しくなってきて、足元にあった小石を腹立ち紛れに蹴っ飛ばす。
やっぱり、ライアと腹を割って話さないとダメだよな。
そりゃアイツから何回か好きだって言われた事はあったけど……毎日同じ部屋で寝泊まりしてても妙な雰囲気になる事もなけりゃ、女や娼館の話をしても眉毛ひとつ動かしゃしねぇ。
さっきのエリスの事だって、反対するどころかむしろ積極的に仲間に入れようとしてたじゃねぇか。
正直、本気になんて出来なかった。
アイツと寝れるかっつったらわからねぇ。女に感じるような可愛い、守りたい、抱きたいって気持ちがアイツに起こるかっていうとそんなワケじゃねぇから、多分オレはアイツをそんな風には見れないんだと思う。
ライアだってそれが分かってるから、あえて押して来なかったのかも知れねぇけど。
だからってあんな風に急に、待たなくていい、パーティーを抜けるとか言い出すなんて想像もしてなかった。
冗談だよな? だって一緒にたくさんの人を守ろうって約束したじゃねぇか。
ほんのガキの頃からずっと一緒だった。アイツがいない旅なんて想像も出来ない。気が重いけど、ちゃんと説得して仲直りしたい。聖騎士の塔の事はよく知らねぇけど、そんなに挑みたいならちゃんと待つし、どれだけ時間がかかるか分かんねぇって言ってたけど、なんなら一緒に登ったっていい。
エリスの事だって……そんなに嫌ならエリスに謝って、パーティーの話は無かったことにする事だって出来るんだから。
扉の前でドアノブを見つめながらちょっとだけ間をおく。
「ライア?」
気まずくて、いつになく声をかけながら宿の俺たちの部屋の扉を開けた。なのに部屋は真っ暗で、違和感を覚えつつオレは部屋へと足を踏み入れる。
部屋の中はシンと静まりかえっていて、居心地の悪さを感じさせた。
「ライア? まだ戻ってねぇのかな」
寝てるのかと思って灯りをつけてみたけどやっぱり居ない。ベッドにも風呂にもトイレにも居ない。下の酒場にも居なかったと思うけど、どっか別の場所で呑んでんのかな。
探しに行くべきか、ここで待ってた方がいいのか……そんな事を考えつつ水差しとコップを手に、テーブルのとこまで戻ってきた時だ。
テーブルの上に、ちょこんと置かれてる守護石と数枚の紙切れに気がついた。
「アイツにしちゃ不用心だな」
守護石は全属性の加護がついてるだけに、売れば結構な額になる。オレらの宝物だって言っていつだって大切に持ち歩いてたのに、らしくねぇな、と守護石に手をかけた時、紙切れに『カーマインへ』と書かれた無骨な文字が見えて、オレの手はそのまま動かなくなった。
……手紙?
一瞬、嫌な予感が過ぎって俺はゆっくりとその紙を持ち上げる。文字を目で追って、オレは呻いた。
そこには一方的な決別の文字が綴られていたからだ。
……‥………………‥………………‥…………
カーマインへ
勝手な事をしてごめん。
お前がこの手紙を読む頃には、俺はもう塔に入っていると思う。お前にうまく話せているだろう自信が無いから、この手紙を書いている。
お前は真っ直ぐなヤツだから、俺の真意が分からないままだと気になって先に進めないかも知れない。それを回避するためにできるだけ丁寧に書くつもりだが、俺が言いたいのは結局、これだけだ。
俺がパーティーを抜けるのは俺に問題があるだけで、お前には何の非もない。
今後お前と行動を共にする事はないだろう。けれど、お前の幸せを誰よりも願っている。
すごい冒険者になって、たくさんの人を俺たちの腕で守る。離れていてもお前と交わしたその誓いだけは俺の生涯をかけて守るよ。それだけは信じて欲しい。
……‥………………‥………………‥…………
そこまで読んで、オレはテーブルを思いっきりぶっ叩いた。
「なんだよそれ。もう塔に入ったって……今後お前と行動を共にする事はないだろう、って……ふざけんじゃねぇよ、勝手に決めんなっつうの」
手の中で、ぐしゃっと紙が音を立てる。
こっちに何の相談もなく、一人で勝手に考えて自己完結してるのが無性に腹が立つ。
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