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第5話 【カーマイン視点】どうすりゃいいって言うんだよ

怒りでつい握りつぶしてしまった紙を無言で平らにならしてポケットに押し込んでから、オレは大剣を担いで外に出る。そのまま全速力で走って『聖騎士の塔』に急いだ。 塔に入っちまったってんなら、追っかければいいだけだ。 ライアは一度入ったら簡単には出られないみたいなこと言ってたけど、まだ入り口付近なら出て来れないって事もないだろ。ふん捕まえて引き摺り出してやる。文句のひとつやふたつ、言ってやらねぇと気がすまねぇ。 そう勢いこんで『聖騎士の塔』に向かった翌日。 オレは宿屋の下の酒場で思いっきりエールを煽っていた。 ムカつく。ホントにムカつく。 昨日あのあと『聖騎士の塔』に到着したオレは、塔の門の前で愕然とした。 「時間外につき閉門中。開門は明けの鐘から宵の鐘まで」 そんなバカにしてるのかって文言が書かれた紙切れが門に貼り付けられている。塔ったってダンジョンだろう? 入れる時間が決められてるなんてあるのかよ……! 知ったこっちゃねぇと思って門の扉を叩いたり、揺すったりしてみたけれど、扉はピクリとも動かない。単に重たい扉ってわけじゃない、魔法で封印されてるんだとハッキリ分かった。 手も足も出なかったオレは、もちろん門が開く時間を待って再度塔へ向かったけど、今度は門番にあっさり追い返されてしまった。なんでもある程度の魔力がねぇと、入る事すら許されねぇらしい。 まさか、追いかける事さえ出来ないとは思わなかった。 呆然としたままギルドに行って、エリスと一緒に近くのダンジョンに潜って一層で軽く討伐体験をさせてそのまま別れて。宿屋に戻ってみたものの誰もいない静か過ぎる空間に耐えきれなくなって、酒場で酒を煽っているのがイマココだ。 最悪だ。 ライアのせいで気が散りすぎて、エリスと何を話したのかもあんまり覚えてない。初心者だから仕方ないけど、何もかも危なっかしくてとても頼りには出来なさそうだという事くらいしか分からなかった。 どっちにしろライアがパーティーに戻ってくれない事には、拠点を変えるために街を離れる事すら難しいんじゃないかと思う。 「どうすりゃいいって言うんだよ」 何にも分からない。せっかく朝『聖騎士の塔』まで行ったのに、入れないって事に驚きすぎて何も聞いておかなかったオレがバカだった。 明日もう一回、改めて塔まで行こう。 それで、『聖騎士の塔』が何なのか、聖騎士になるのにいったいどれくらいかかるのか、ちゃんと情報を得るんだ。 そんな決意と共に明けの鐘と共に『聖騎士の塔』前に立ったオレに、門番のおっちゃん達は明らかに面倒くせぇなぁ、って顔をした。 「おいおい、また来たのかぁ? 昨日も言っただろ、お前じゃこの塔には入れねぇよ」 門番のおっちゃんが顔を顰めてしっしっと手で追い払うマネをする。でももちろん今日はそんなんで引き下がるわけにはいかねぇから。 「いや、違くてさ、今日は塔の事を聞きたくて来たんだ。多分おととい? オレの相棒がこの塔に入ったと思うんだけど。銀髪を後ろで一括りにしてる……オレよかちょっと背の高い……槍を装備したヤツなんだけど」 「あー、あのシュッとした兄ちゃんな、見た見た」 門番のおっちゃん達はすぐに思い出してくれたようだ。だよな、絶対覚えてる筈だと思った。 ライアは眉目秀麗って言葉がよく似合うような綺麗な顔をしてる。 アイツは気にもとめちゃいないみたいだけど、女の子からの熱い視線を受けることもしょっちゅうだ。正直言って羨ましい。銀の髪に少し暖かみのある緑色の目は、あんまり他ではみたことない配色で、あいつの綺麗な顔と相俟ってそうそう忘れられたりしない顔だと思うんだ。 アイツが目立つ顔で良かった。それにしても、やっぱりもう塔の中にいるんだな。 居場所がわかってホッとしたような、でもすぐには会えないのが確定してもどかしいような、微妙な気持ちになった。 「はいはい、あの色白のイケメンな。アイツが聖騎士になったらいかにもって感じだろうがなぁ、ま、顔で決まるわけじゃねえからなぁ」 「いや、強さは大したことなかったが、案外ああいうのがいいとこいくと思うね。時間はたっぷりあるっつってたから、粘るかも知れねぇ」 「あのさ」 「悪いが、塔に挑みたい」 ライアの話題で盛り上がり始める門番達に、用意していた質問を投げかけようとした瞬間、後ろから太い声が響いた。振り返ってみたら手練れの匂いをプンプンさせた5人組のパーティーがいる。 「悪りぃな、ちょっと待ってな」 オレの頭をポンと叩いてから、門番達が5人組の方へと視線を移す。この後交わされた問答で、思いがけずオレは『聖騎士の塔』のルールをざっくり知る事になった。 「うーん、この塔に入れるのは……アンタとアンタ、……それとそこの魔剣士、アンタもギリギリOKだ」 「他はダメだな。入れねぇ、帰ってくれ」 「なっ……」 当然、入れないと弾かれた二人が鼻白む。うんうん、気持ちは分かる。オレもそうだった。

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