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第6話 【カーマイン視点】待つしかねぇか
「この塔はちょっと特殊でな、一定レベルの魔力があるヤツしか入れねぇんだよ。やめとくか?」
じっくりと五人組を眺めた門番がくだした裁定にリーダーらしき男が何か言おうとするのに被せて、門番その2がからかうように言う。
「ちなみにこの塔に入れるのは一生に一回きりだ。俺らも詳しい事は分からねぇが、個人の魔力が登録されるんだとさ。おんなじヤツが来たら塔から吐き出されるらしいぜ」
「聖龍様に近づくにつれ魔物も強くなる。上階にゃAランクの魔物もゴロゴロいるらしいから、腕に自信がないなら今はやめときな。結局途中で諦めて出てくるヤツも多いが、そうなると二度とチャレンジ出来ねぇからな」
「だなぁ、帰って来ねぇヤツも多いぜ。聖魔法を教えて貰えたヤツより、死んだヤツの方が多いかもなぁ」
「危険はもとより承知だが……」
5人組のリーダーは苦虫を噛んだような顔で唸る。
「中衛、後衛の三人しか入れねぇってのがツラいな」
「待ってるのも暇だしなぁ」
「あのっ、最短で攻略にどれくらいの期間がかかるのでしょうか」
諦める事になりそうな気配を察したのか、魔術師っぽい女が門番に詰め寄る。できれば挑戦したい、という顔だ。
「なんか有名な冒険者だって自分で言ってた男が、たしか一週間程度で出て来たんじゃないか?」
「でもクソみてぇな聖魔法しか覚えてなかったぞ、アイツ」
「別にいいじゃねぇか、喜んでたんだし。聖龍様に会った、直で聖魔法を学んだっていうステータスが欲しかったんだろ」
また雑談モードに入った門番達を他所に、五人組はヒソヒソと作戦会議だ。その隙に、オレは門番その2の肩をちょいちょいとつついた。
「なぁなぁ、短くて一週間なら長くてどれくらいなんだ?」
「さぁ、でも一年や二年出てこない事も結構あるけどな」
「二年も!? ダンジョンに篭りっきり!?」
「最長は五年だったか」
「あー、あのペアで入ってたヤツらか。あいつらはとっくに死んだと思ってたよなぁ」
またもや思い出話に花を咲かせている門番のおっちゃん達。オレは聞いた内容のあまりの衝撃に、ふらふらと覚束ない足取りでその場を離れた。
二年とか五年とか……嘘だろ!?
一週間はさすがに無理かも知れないけど、せめて一ヶ月くらいにして欲しい。ライアが言ってた何年かかるか分からないって言葉が、存在感を持って俺の前に立ちはだかる。
せっかちで思いついたら即行動のオレと違って、ライアは元々が慎重派だ。二年、五年コースも充分にあり得る。ていうか、あいつ自分はソロになったと思ってるだろうから、多分『聖騎士の塔』の隅々まで丹念に探索しようって思ってるよな……。
丁寧に丁寧に、何もないのが目視できるダンジョンの脇道でさえ奥まで行って確かめようとするヤツだ。五年コースあり得る。めっちゃあり得る。
「五年かー……長いな」
心の声がつい口から出た。耳から入ってきた五年、が地味に重い。それでもライアと決別しようっていう気にはどうしてもなれなかった。しかも追いかけても行けないんだよなぁ……。
「待つしか、ないかぁ……」
五年は長い。待ってる間、この街で俺に何が出来るんだろう。
***
どんなに落ち込んでいてもやるべき事はあるもんだ。
俺はふらつく足取りのままギルドに向かい、エリスと合流してダンジョンへと潜った。
一歩ダンジョンに入れば、そこは死と隣り合わせの世界だ。何があってもダンジョンに入れば平常心。これまでライアとそう言い合って何度も命を拾ってきた。ライアも今頃、その心持ちで『聖騎士の塔』で一人、槍を振るってるんだろう。
ひとつ、深呼吸をする。
落ち着け、平常心だ。ふらついてた足もようやく自分の足としての感覚が戻ってきた。
「エリス、大丈夫か?」
「はい!」
やっとエリスを気遣えるだけの心の余裕もでてきたかもしれない。
ヒーラーは補助と回復特化の専門職だ。自らが魔物と相対する事はほぼない。俺が魔物と戦うのを後ろで見ているだけでも昨日は真っ青になってたから、本当に初めてダンジョンに潜ったんだと思う。
うん、でも、昨日よりは目がしっかりしてる気がするな。
そうこうしてるうちに魔物とエンカウントしたけど、戦闘が終わってもエリスは昨日ほど青ざめる事も震える事も無くなっていた。
ふと、ライアの手紙に書かれてた事を思い出す。
『俺たちも最初に魔物と出くわした時は木の枝で作った剣を投げ捨てて全力で逃げたよな。エリスも最初は頼りないかも知れない。けど、あの日の俺達を思い出して、長い目で見てやるといい』
エリスの心配までしてるのにビックリしたけど、ライアのいう通りだ。これなら冒険者としてやっていけるようになるだろう。
そう言えばエリスとは、色んな街を見てみたいってとこで意気投合したんだった。あの時はしばらくしたら街を離れるつもりだったけど、俺はライアが戻るまでこの街を離れないって事だけは譲れなくなってしまった。
事情を話して、エリスとも今後の事を話し合うべきだよな。
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