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第7話 聖騎士の塔

なんとも不思議な塔だった。 まず、見た目とは広さが全然違う。外から見た時は家四軒分くらいの敷地に立つ、何階建てかは見当がつかないほど細長い塔で、門番の人達が何ヶ月、何年もかかる冒険者も多いと言った意味が今ひとつ分からなかったけれど、いざ入ってみると本当に広くて複雑で、いかにも迷宮、という造りになっている。 迷わないようにとマッピングしながら歩いているが、少なくともこの街が縦に三つ程度は並べられるくらいに広大だ。多分、この塔の主である聖龍の力で、塔の入り口とこのダンジョンを繋げてあるんだろう。 石造りで適度にたいまつが灯してあるのは有り難い。まだ一層だからかも知れないが魔物はさほど強くなく、食用に出来るものが多い。死体や血糊の跡もない清潔さも一種異様だ。 適度に置かれた宝箱には一層らしく大したものが入っていなかったり、空だったりする。今のところ宝箱にはトラップがないが、上層に行けば行くほどその危険は増すだろう。 「また階段だ」 やたら広いせいか、三つめの階段に出くわした。割と入ってすぐのところとマップの真ん中あたりと、ここ。まだあるのかな。そこそこ実力があって先を急ぐパーティーなら、最初の階段でどんどん次の層に行くんだろう。 カーマインが一緒だったら、多分俺たちも一つめか二つめの階段で上層に移動したと思う。 あいつはせっかちだからな、とつい口元が緩む。 一人になったんだ、俺らしく愚直に全てを見ていこう。そう思って俺は三つ目の階段も迂回した。まだ先がある。 一見何もなさそうな脇道もちゃんと突き当たりまで行って隠し扉や仕掛けがないかをチェックする。今のところ特に収穫はないが、まぁ、自分の探究心は満たされるからそれでいい。 そんな風に細かい脇道までいちいち丁寧に潰していくものだから、まだ一層にいるというのに塔に入ってから多分一週間は経っただろう。昼夜が分からないから、どうしても時間の感覚は鈍る。 カーマインはエリスとうまくやっていけているだろうか。一応助言は書いておいたから、少しは助けになるといい。 もはや確かめる術もない事をつい考えてしまう自分に苦笑が漏れる。 大丈夫。カーマインは俺なんかよりずっと人とのコミュニケーションに長けている。心配など要らないだろう。 夕飯にちょうどいい小ぶりなボアを仕留めて血抜きしてから肩にかつぐ。もう少ししたら夕飯を食って今日は終わりにしよう。そんな事を考えながら警戒しつつ角を曲がった。 「……あ」 なんと四つめの階段だ。そしてその向こうにはまだ一本道が続いていた。 もちろん階段は迂回してその先に進むが、一本道の先は折れていて、先に進むとさらに折れる。何となく袋小路に追い詰められるような嫌な造りだ。 まだ一層。 されどダンジョン。 「平常心」 カーマインと合言葉のように言い合った言葉を呟いて、角を曲がる。その先は何もない行き止まりになっていた。 「……」 いかにも無駄な空間。罠かも知れないと訝しむ心もあるが、しかしここまで来たらきちんと奥まで探索したい。背後に気をつけながら奥まで行って、丹念に壁や床をチェックする。何もない。 念には念をと頭上を見上げた俺は、石を並べて作られた天井に明らかにひとつだけ色が違う石を見つけて思わず顔を歪めた。 もしかしたらモンスター系のトラップかも知れない。ここは袋小路だ、退路を断たれると逃げたくても逃げられない。 でもなぁ、困ったことに俺の槍……ソードスピアなら柄の部分で簡単に押せてしまうんだよな。 押すべきか、押さざるべきか。 これは迷う。 俺の得物は槍だから距離をとりながら戦える筈だし、接近戦になってもナイフもある。いざとなったら目眩し用の煙玉もある。階段も近くにあるし、何とかなるだろう。 散々迷って、結局は押す事にした。 念のため元来た曲がり角まで行ってみて、魔物が来ていないかを確かめた上で戻り、恐る恐るソードスピアの柄で件の石をグッと押してみた。 途端に、眩い光が辺りを照らす。 光の中にふわりと丸い球体が浮いているのが見える。俺は咄嗟にソードスピアを構え直し、光を放つ球体を凝視した。 丸い球体が光に融けて、代わりに何かが淡く形作られていく。 警戒は解かず、しかし敵か味方かも分からない状況で攻撃する事も出来ず、俺はその光が形を持つのをじっと見守った。 ……人? 段々と形がはっきりしていくとそれは人の形になり、ついには神か天使かと見紛うような輝く美貌を持つ男の姿となった。 「えらい、えらい」 「……?」 男が嬉しそうな表情で放った第一声の意味が今ひとつわからなくて、俺はソードスピアを構えたまま微動だにせず男を見つめる。 「警戒しなくても良い。私はこの塔の主、聖龍だ。本体は巨大すぎるのでね、お前達、人の姿を模しているのだよ。ああ、こうした方が分かりやすいか?」 そう言って、聖龍だと名乗る男は目を閉じた。すると頭には立派なツノ、耳のあたりにはヒレっぽい何か、背には翼竜の翼っぽいものが一瞬で現れる。

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