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第8話 聖龍からの褒美

聖龍だとか突然言われてもピンとこなかったが、でも、登場の仕方もあり得ないし、人外だと言われた方が納得できる美貌だ。翼やら何やらが増えてますます人外っぽさが増したその人を、俺は信じる事にした。 「聖龍……だとしたら、なぜここに?」 「褒美をやろうと思ってな」 「褒美? まだ何も為していないのですが」 「一層のこんな奥の奥の奥まで辿り着き、入念に調べてくれる者は本当に稀なのだよ。丹精込めて作ったダンジョンだ。できる事なら余す所なく堪能して欲しいと思うのは製作者の性だろう」 「そんなものですか」 「そんなものだ。私の生命はうんざりするほど長いのでな、常に娯楽を求めている。ついにはこんな塔を作ってしまうほどに」 それはそれで大変そうだ。最強と言われる龍種にも、彼らなりの苦労があるんだろう。 「とても繊細に私の塔を調べ、最後のボタンを押そうかどうかと迷っている姿はとてもハラハラした」 俺はその言葉に驚愕した。 「み、見てたんですか」 「うむ。見ようと思えば全て見えるでな。あっという間に次の階に進むようなガサツな子らには興味はないが、おぬしのように謎を慈しむ子は見ていてとても楽しい。悩んだ末に危険も視野に入れつつボタンを押したときには胸が震えた」 「……」 なんだろう。めちゃくちゃ恥ずかしい。 「上層もぜひ同じくらいの熱量で楽しんでくれ」 真剣に迷っていた場面を見られていたのはかなり恥ずかしいが、俺の探究心が、退屈でしょうがないらしい聖龍を喜ばせる事が出来たのなら良かった。元々言われるまでもなく隅々まで見て回るつもりだったから、やる事に変わりはないんだし、まぁいいかと開き直る。 「この塔を時間をかけて楽しんでくれる冒険者には、それ相応の褒美を与える事にしているのだよ。おぬしへの褒美はこれだ」 「これは……?」 「聖力メーターだ。聖魔法を覚える時に必要になる力……聖力を測る事ができる便利な物だぞ」 「聖力……メーター……」 「謎を解くのは好きだろう? どんな時に溜まっていくのか、自身の目と行動で確かめるがいい。無論たくさんある方が強い魔法を覚えられるから、頑張りなさい」 「あ……ありがとうございます!!!」 もしかしてこれは、とんでもなくやる気がでるアイテムを授けて貰えたんじゃないだろうか。努力次第でコツコツ溜まっていくのを見るのはなんだって楽しい。金でも経験値でもスキルでも。 「うむ、喜んでもらえて何よりだ。ちなみにこの塔は、長く遊んでくれる者にはとことん優しく作ってある。この最奥の階段のほぼ真上の三階と七階には宿兼よろず屋のような場所を設けてあるのだ」 「えっ」 驚く俺に、聖龍はドヤ顔で説明する。 「冒険者たちがな、長期のチャレンジで困るのが、風呂と増えていく戦利品だと口々に言うのでな、設けてやったのだ。とても好評で塔にいてくれる時間が格段に伸びた。自慢の設備だ、おぬしも存分に使うが良い」 「そんな、至れり尽せりな事が……」 「こんな奥の奥のそのまた奥まで来た者しか知らぬ事よ。塔には手強い魔物も、命に関わるトラップも多い。出来るだけ死なずに、長時間塔を楽しんでくれ」 物騒なことを言いつつ、聖龍はまた光の中に段々と溶けていく。 「最上階に辿り着いた時、おぬしに相応しい魔法を授けてやろう」 その言葉を最後に完全に聖龍の姿は消え、あとには静寂だけが残っている。 「夢みたいだったな……」 ラスボスだと思っていた聖龍との、まさかの序盤での出会いが信じられず、ついそんな言葉が口から転がり出た。世の中はいつも想像とは違うものだ。 しばらくその場で呆然と佇んでいたら、角からたまたまフィートラビットが出てきて我に返る。ソードスピアの長いリーチを利用して素早く仕留めた俺は、ようやく現実に戻ったような気分になった。 そうだ、今日はこの辺で終わりにしようと思っていたんだった。 どちらにしてもこの袋小路で飯にするのは危ない。逃げようがある場所まで戻るか……と思って、ふと聖龍の言葉を思い出した。 「宿があるって言ってたな」 さすがに体が気持ち悪い。深いダンジョンに潜れば仕方ない事だが、浄化系の魔術を覚えられない俺にとっては、風呂に入れるというのはまさに魅惑の情報だった。聖龍は『階段のほぼ真上』に宿があると言っていた。それなら、明日下の階に降りて探索を継続することも可能だろう。 仕留めたフィートラビットを血抜きして腰に結わえ、本日の夕飯予定だった小ぶりのボアを肩に担いで、俺は階段へと歩みを進めた。 *** 「店だ……」 思わず、呟いた。 三階まで階段を登ったら、本当にそのすぐ横に店があった。木でできた看板もあるし、スイングドアの上下からは暖かい光が漏れている。 やっぱり人の営みを感じる光は安心するものだな、と感慨深く思いながらスイングドアを押し開けると、途端に明るい声に迎えられる。 「いらっしゃいませー。おお! 新顔!!!?」 「久しぶりだなぁ、入って入って!」

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