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第11話 【カーマイン視点】安否が知りたい

聖騎士の塔に登ったっきり、帰って来ないヤツも多い……つまり、死んじまったヤツも多いって事だ。そんなの冒険者になった瞬間から覚悟してた筈だった。 オレたち冒険者の毎日はいつだって死と隣り合わせで、オレやライアの親みたいに、いつ『帰らない』状況になったっておかしくないんだ。 でも。 それは自分の目の前で起こる筈の事だった。ライアか、どっちが先かなんてわかりゃしないけど、相手の最期を看取るのはお互いの筈だって思ってたんだ。こんな風に離れ離れで、オレのいないところでライアが命危機に晒されるなんて場面、以前だったら考えたこともなかった。 ライアはオレと違って慎重なヤツだ。そう簡単に死んだりしない。 いつもはそう信じて「オレも負けないように頑張らなきゃ」って自分を励まして前に進める。でも、こうしてたまに……本当にたまに、不安で不安でどうしようもなくなる時があるんだ。 「せめて、生きてるって確信が持てればな……」 無理なこととは分かっていながらそんな事を考えつつ歩いてたら、いつの間にか『聖騎士の塔』の前に来ていた。 オレってバカだな。 不安になると無意識にこの塔に来ちまうの、どうにかなんないだろうか。 「おっ、また来たのか」 「まだ出て来てねぇぞー」 門番のおっちゃん達がめざとく見つけてからかってくる。月にニ、三回はこんな感じで吸い寄せられるみたいに塔の前に来ちまうもんだから、今やすっかり顔馴染みだ。 「あーあーもう、そんなしけた顔すんなって」 門番のおっちゃん達から慰められる。オレはそんなにしけた顔をしてるんだろうか。いや、してるだろうなぁ。さっきまで思考がマイナス方向にぐいぐい偏ってたもんな。 「まあなぁ、心配なのは分かるけどよ。お前の相棒、入ってからどれくらい経つっけか」 「ざっと半年」 「うーん、まだかかるかもなぁ。ホントに三ヶ月もしないうちに出てくるヤツもいるけどなぁ、戻ってくるヤツは一年以上ってのが多いもんなー」 「知ってる」 『聖騎士の塔』をクリアしたらギルドに報告する義務があるらしくって、オレはもう何回もギルドで『聖騎士の塔』での武勇伝を肴に飲み明かす集団を見てきた。 上位の聖魔法を覚えて帰って来たヤツなんて、本当に年単位で籠ってたヤツらばっかりだ。それはライアはきっとまだまだ塔から出てこないだろうって落ち込む原因でもあるし、一方で、だからきっといつか戻ってくるっていう希望でもある。 「ライアは慎重派だから、多分もっとかかるんだよ」 「だなぁ、あの時間はたっぷりあるって言ってたイケメン兄ちゃんだろ? ありゃあ長いぜ」 門番のおっちゃん達がうんうん、って頷き合ってるのを見ながら、オレは大きくため息をついた。 「せめてさぁ、生きてるって分かるだけでも安心出来るのに」 言ってから、あっと思った。 「そうだ、おっちゃん!」 「誰がおっちゃんだ!」 あっ、つい心の中での呼び名がそのまま出た。……じゃなくて! 「それよりさ、塔に入るヤツらってすぐ出て来そうとか長くかかりそうとか、やっぱりおっちゃん達には分かるもんなのか?」 「説明する時の反応で大体はやっぱり分かるよなー」 「この仕事長いしな」 「ならさ、短時間でのクリアを狙ってる奴らにさ、塔の中でライアを見かけたら教えてくれるように依頼できないかな」 「ああ、あの兄ちゃんならまぁ、イケメンだし特徴的だから頼んどきゃ分かって貰えるかもなぁ」 「ま、依頼を受けてもいいってヤツが運良くいたら、程度だぞ。あんまり期待するなよ」 門番のおっちゃん達はなんか可哀想にって感じの同情的な顔をしてオレを見るけど、オレ自身はさっきからしたらぐんと気持ちがラクになった。 「うん! でも、いつかその情報が貰えるかもって希望が増えるだけでも、気持ちが全然違うからさ」 情報が貰えるとしてもまだまだ待たなきゃいけないだろうって事も分かってる。仮に情報が貰えたとして、それが正しい情報だっていう保証がないのも分かってる。報酬目当てに見たっていうヤツが出たっておかしくないんだから。 でも。それでも。 ライアについての情報なら、その端々に見え隠れするだろうアイツらしさを見分けられる自信があった。情報さえ貰えれば、その真偽は自分で判断すればいい。 「頼むよ。本当に心配なんだ」 「まぁなぁ、そりゃあお前見てりゃ気持ちは分かるけどなぁ」 おっちゃん達は二人で顔を見合わせてから、しょうがねぇかって表情で頷き合う。 「そう頼まれちゃあ、しょうがねぇなぁ」 「じゃあまぁ、今度から塔に登る冒険者達に、一言かけといてやるよ」 眉を下げた困り顔でおっちゃん達がそう約束してくれる。 「マジか! 本当にありがとう! 今度、差し入れ持ってくるよ!」 「気にすんな」 「ありがとー!!!」 思わずおっちゃん達に大声でお礼を言って、オレは嬉しさのあまり駆け出していた。突き動かされるように勝手に足がどんどん前に前に進んでいく。 こんなに走り出したいくらい嬉しい気持ちなんて久しぶりだ!

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