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第12話 【カーマイン視点】嘘だろ……
ひとつ大きな問題が片付くと、現金なもんで急にやる気が出て来た。
これまでエリスのレベルに合わせて危険の少ない階層を中心にチャレンジして来たけど、よく考えたらライアは聖騎士の塔で、ひとりで高レベルの魔物とも戦ってるわけだから、格段にレベルアップしている筈だ。せっかくライアが戻って来ても、実力がうんとかけ離れちまったら、さすがに一緒に行こうなんて言いづらい。
そうだよ、オレはオレでライアがびっくりするくらい、強くなっておかないと。
半年の差はデカい。既に結構な遅れをとっている筈だ。明日からはめちゃくちゃ装備を整えて回復薬だって大量に準備して、ダンジョンのできるだけ深くに潜ろうかな。なんなら一週間や二週間潜りっぱなしでがっつり時間をかけたっていい。オレひとりなら、少々無茶な篭り方だってできるんだから。
しばらくダンジョンに篭ろうと決めたら、ふとその前に娼館に行っといてもいいかな、と思いついた。
ライアが『聖騎士の塔』に突然篭っちまってから、ショックのせいかなんかもう色々な事にやる気がなくなっちまってて、酒をのんでも美味しくないし、街を歩いてても気分が上がらない。結果、酒盛りした後のノリでよく足を運んでた娼館にも、この半年はめっきり行かなくなってしまっていた。
でも今日はめちゃくちゃに気分がいい。久々に生きてる実感がある!
今日くらいは娼館でハメを外してもいいんじゃないか? それでスッキリした頭と体で、明日からはダンジョンに篭りっきりでレベルアップ!
そうだ、それがいい。
「よっしゃ、そうと決まればさっそく行くか!」
うきうきした足取りで、暗くなってきた街の中を歩く。
スキップでもしたいような気分だったけど、さすがにそれは我慢した。薄暗い中で煌々と怪しげに煌めく通りに足を踏み入れ、馴染みの店に吸い込まれるように入っていく。しばらくぶりだけど、今日は好みの女の子はいるかな。スレてない雰囲気の、全体的に華奢な感じの方がいい。
久しぶりの色街の匂いに心が躍る。
でも、うきうきと心躍るような楽しい時間はそこまでだった。
料金分の時よりだいぶ早めに店から出たオレは、がっくりと肩を落としとぼとぼと宿へと帰る。その足取りは、来た時とはまるで違う重っ苦しいものになっていた。
「嘘だろ……」
全っっっ然!!! 楽しめなかった!
いや、勃つには勃ったし、ヤル事はヤッた。
でも。
ベッドの上で手を差し伸べて誘ってくる女に、ライアの顔がダブって見えるんだ。
アイツの、困ったみたいな、笑顔。
一回思い出すともうダメだった。オレが娼館に行くたびにアイツは寂しく思ってたのかなとか、本当はオレとこんな風に肌を重ねたかったのかなとか、アイツの薄くて淡い色の唇とか、今思い出すべきじゃない事ばっかり頭に浮かんで全然集中できない。
頭の中から追い出そうと、目を瞑って頭を振ってみたけど、むしろ目を瞑った方が鮮明にライアの顔が浮かんでくる。女の肌の白さが目立つようになのか深い紺色のシーツに散る髪を見て、これがライアの銀髪なら、ライアの白い肌ならきっともっと綺麗だろうなんて気がついてしまえばもうおしまいだ。
女の逸らされた喉に、アイツの滑らかな喉や白い首筋がダブる。だってしょうがないだろう。オレの方が背が低かったから、きっと目線が無意識に喉にあったんだ。アイツの首筋も喉も、なんでだか陽にも焼けないで真っ白で綺麗だった。きっと指先で触れたらしっとりと滑らかな……いやいやいや。
危ない思考に焦って、大好きだった筈の女の細い腕もたわわな胸に意識を集中させては見たものの、どうしてかぐっとこない。そのうちオレの下で喘ぐ女の姿や声すらも鬱陶しくなって来た。
代わりに「カーマイン、好きだ」って小さく呟いたライアの、切なそうな、苦しそうな顔が脳裏を占領する。アイツの方がよっぽど綺麗だと思った瞬間、オレの愚息は急に一気に元気になった。
その勢いであえなくフィニッシュしたものの、オレの心中は混乱と焦燥でいっぱいだ。このままじゃヤバいと思ったオレは、まだ時間も残っているというのに早々に行為を切り上げた。
まったくもう、なんなんだよ。娼館でアイツの顔が浮かんで困るだなんて初めてだ。やっぱりアイツが居なくなってから、四六時中アイツのことばっか考えてるから、あんな時にまで思い浮かぶのかな。
はぁ、とひとつ大きなため息をつく。
しばらく娼館はいいや。ダンジョンに潜って真面目にレベルアップに勤しもう。
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