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第13話 難易度が上がってきた

苦戦していた。 『聖騎士の塔』も四階層ともなると、これまで遭遇した事のない敵にもエンカウントするようになる。古びたレンガが寄せ集まって生命を持ったようなゴーレムは、魔法も効かずソードスピアの斬撃も効きにくい。 幸い塔で稼いだ金をほとんど注ぎ込んでソードスピアを買い替えたばかりで、柄の部分もミスリルほどではないが軽くて高い硬度を持つ特別な金属で作られていたのが助かった。 柄の部分を棍のように使って打撃でダメージを与えていく。 ところがだ。 足を突き崩しても腕を突き崩しても、その崩れた形状のまま、また引き寄せられるようにゴーレムは元の形に戻っていく。 目の前には、最初に現れた時に比べればだいぶ崩れたレンガでできた、それでも五体満足のゴーレムが形成されている。どうやったら勝てるのか分からない。 振り下ろされる腕を避けながら、必死で考える。 あの崩れたレンガを引き寄せている、核みたいなものがあるんじゃないのか。 幸いゴーレムは力は強そうだが俺に比べればだいぶノロい。相手の攻撃を避けながらじっくりと観察してみたら、人間でいう心臓のあたりが淡く光っているのが見えた。 「そこか!」 振り回される腕を掻い潜り、淡く光るところをぶち抜く。 ゴーレムはガラガラと崩れ落ち、生命のないただのレンガの集まりになった。 「……良かった」 はぁはぁと荒い息をつきながら、心の底からの声が出る。これでゴーレムの攻略法がなんとか見えた。これから先はこうやって頭を使いながらでないと倒せない敵も出てくるんだろう。 見るともなくレンガの山を見ていると、その中に明らかに異質な黒くて丸い物体があるのが見えて、ああこれがゴーレムの核か、と思い当たる。 せっかくなので採取して、いつものルーティンで聖力メーターを見た俺は、驚いてちょっと声をあげた。 メーターの数値が明らかに上がっている。俺は思わず、小さくガッツポーズした。 その横のうす青く光るバーみたいなものも、若干増えているような気がする。ゴーレムは聖力の多い魔物なのか。それは倒す甲斐がある。これからは見つけたら積極的に倒すようにしよう、と決めて俺はまた歩きだした。 聖力メーターは全体の1/4くらいは溜まってきただろうか。聖龍様は溜めた聖力が多いほど高レベルの聖魔法を教えてくれると言っていた。魔物を倒してもこんなに多くの聖力が入手できる場合があるのなら、意外と早く溜まるかも知れない。 そして俺は一見なにもないように見える行き止まりの先の先まで行って、あたりを見回した。 お、ここにもあった。 よくよく見ると壁の中でほのかに光っている石がある。それをソードスピアの柄で軽く突いたら光が消えて、ほんとにちょっとではあるけれど聖力メーターの数値が上がるんだ。 こんなこと、このメーターがなかったらきっと気がついていなかっただろう。 このメーターを手にしてから、塔の探索がさらに楽しくなった。カラの宝箱から大量の聖力がゲットできる事もあるし、本当にカラのときもある。 壁から生えている蔦や苔にはちょっぴりずつ聖力が溜まっているし、一番興奮したのは一見何もない壁なのに、なんとなく違和感を感じてよくよく見たら、人が一人通れる程度に四角く淡い光が漏れていて、その部分を触ったら壁の中に入れてしまった事だ。 壁のように見える幻だったみたいで、その奥には宝箱が三つ鎮座している。ふたつはレア素材、残るひとつからは大量の聖力がゲットできた。ゲットした聖力の総量を視覚的に把握できる青いバーがキュッと増えたのはめちゃくちゃ嬉しかった。 ただ、心配していたようにやっぱりそれなりにトラップもあって油断できない。 下の階に落とされる程度なら痛くて時間が余計にかかる程度でさほど問題ないが、毒ガスや矢が放たれるタイプやモンスターが出てくるタイプのトラップは結構危ない。そして俺が一番恐れているのは塔のどっかに無理矢理転移させられる系のトラップだった。 もう二回ひっかかっているが、まず自分が何階層のどのあたりにいるのかの特定に時間がかかって本当に面倒だ。正直言ってかなりうんざりした。今のところ上階には飛ばされていないが、これが突然最上階とかに飛ばされたりしたら、簡単に命を失うだろう。 慎重に、でも塔の中を出来るだけ取りこぼしなく探索したい。 自然、ひとつの階層の踏破にかかる時間は増えていく。それでも端まで辿り着けば帰りは早い。行きは脇道のひとつひとつまで丁寧に見ていくが、戻る時には正しいルートを選んで最短距離で突き進むだけでいい。 戻りは上の階を探索しながら戻れば日数は短縮できるのかも知れないが、宿を出て逆の端まで辿り着くまでには日数も相当かかるし食い物や回復薬も心許なくなってくる。何より疲弊している状況で、今までよりも強い、攻略法も分からないかも知れない敵とぶつかるのは危険だ。 よく言えば慎重、悪く言えば腰抜けだろうが、それが俺の戦い方だ。

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