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第14話 聖龍様との時間
-四階層の探索も終わり、宿屋の前までやってきた俺は、そのまま素通りして最奥の袋小路へと入る。
塔はその階層ごとに造りも広さもトラップも違うけれど、この宿屋の奥の袋小路だけは同じ造りだった。右に右にと折れていき、最後は袋小路。
そしてそこの天井の色が違う石を押せば、聖龍様が現れる。
「素晴らしい! 四階層も完璧にクリアしたな」
聖龍様はいつも褒めながら登場するんだな。そんなちょっとした事に可笑しみを感じる。
塔の中に随分長いこと潜っている俺にとっては、こうして聖龍と語らう僅かな時間や、数日、数週間ぶりに宿屋へ戻った時の他愛無い世間話や情報交換が何より癒される時間だった。
「うむ、四肢の欠損もないようで何よりだ」
「さすがに魔物も強くなって来て、ヤバい時も多いですけど」
俺も苦笑しながらそう返す。聖龍様との会話も大分慣れてきて、もう緊張はしなくなっていた。
「ソロなんで、これでもかってくらい慎重に進んでます」
とはいえ、多分この塔に入ってから軽く半年以上は時が巡ってるだろう。一人での戦闘にもだいぶ慣れて来た。魔物が集団で出た時やものすごく戦いにくい相手が出た時はさすがにカーマインが居てくれればと思ってしまうけれど、この決断をしたのは俺だ。
「うむ、戦闘は厳しかろうな。金を惜しまず武具と補助具に頼った方が良い。私の塔は良いものが揃っているからな」
「はい」
確かにその通りだった。よろず屋といいつつ、武器や防具もかなり幅広い職種に対応しているし、質もいい。そしていざ魔物から逃げたくなった時に使えるようなアイテムや、回復系のアイテムもしっかり揃ってる。……高いけど。
「それにソロでいいこともある。聖力の溜まりは早いから、それは利点だろう」
「えっ、違うんですか」
「うむ。手に入れた聖力はその時居る者に分配されるのだ。お前と同じ動きをしても三人パーティーなら各々1/3程度しか貯まらぬ。早く最上階に到達は出来るだろうが、教えられる魔法は自然と少なくなるのだ」
「なるほど……」
四階層をクリアして、丹念に探索している俺でさえ聖力メーターはやっと1/4を超えたところだ。この1/3っていったら確かに厳しいな。
「して、どういった時に聖力が貯まるかは理解できたか?」
「はい、概ね。壁の石や蔦、苔などに溜まっている場合もありますし、宝箱からはランダムで手に入るようです。カラでも中身がある宝箱でも聖力はあったりなかったり色々でした。魔物を倒しても入手出来ますが単純に強さに連動しているわけではないようです」
「ほう。なぜそう思った」
「ゴーレムや浮かんでいる球体からはかなり多くの聖力が得られますが、戦闘力はもっと高い魔物がいくらでもいますから」
「……そうか」
なぜか微妙な顔をされてしまった。何か間違っていたんだろうか。
「ああいや、その丸い球体は冒険者を助ける目的で配置しているのだが、確かによく倒されてしまうのでな。なぜ敵と認識した?」
「ちくちく刺してくるので……」
「ああ、回復効果はランダムだからな……うむ、善処しよう」
あれ、回復してくれるヤツだったのか。めちゃくちゃ倒してたんだけど、なんだか悪いことをしてしまった。
密かに反省する俺とは逆に、聖龍様は妙に納得したように頷いている。
「いやしかし、おぬしは本当によくよく観察しているのだな。感心した」
聖龍様が嬉しそうに微笑む。
「ちなみにこの四階層での私からの褒美は」
あ、やっぱり今回もくれるのか。
聖龍様は毎回こうしてご褒美をくれる。その階層を探索し尽くしてこの最奥までたどり着いた褒美だと言うんだけれど、毎回貰うとちょっと申し訳ない気もしてくる。ただ、本当に便利な物をくれるから、有難いのは間違いない。
「さっきおぬしがちょうど言っていた、『ちくちく刺してくる浮かんでいる球体』なのだが、貰ってくれるか?」
「えっ、あ、色違い」
これまでの球体はどしゃ降りの時の雲の色みたいにくすんだ灰色だったけど、この球体は聖龍様の髪や翼みたいな白銀で、心なしか優しい光を放っている。
「能力も野良よりは高いぞ。受け取るならば名をつけてやってくれ。それでおぬしを主と認識して命令に従うようになる」
「そんな事が出来るんですか!? ええと、じゃあ……」
うっかりカーマイン、と言ってしまいそうになったけれど、ぐっと堪える。どう見てもカーマインって色じゃないしな。ただの球体なのに、どことなく期待してくれているようにも見えてちょっと可愛い。
「じゃあ、名前はキューにします」
「うむ。呼んでみるがいい」
「キュー、おいで」
手を差し伸べてみたら、キューはその場で2回くらいぴょんぴょんっと跳ねて俺の胸元にピュンッと飛び込んで来た。可愛い。
「回復系や補助系の魔法はいくつか持っているから、色々試しながら絆を深めていきなさい」
「ありがとうございます! 仲間ができたみたいで凄く嬉しいです……!」
「気に入ってくれて良かった。大事にしてやってくれ」
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