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第15話 想像の中では
そう話している聖龍様の姿がふんわりとぼやけ始める。これは、聖龍様との会話が終わりに近づく合図だった。寂しいけど、こればかりは仕方がない。
消える直前、ふと聖龍様が顔を上げた。
「おぬし、名はなんという」
「ライアです」
「うむ、覚えておこう」
その言葉と共に聖龍様の姿は完全にかき消える。そう言えば、名前を聞かれたのは初めてだった。
後には俺とキューだけが残されている。
ふよふよと俺の顔の横あたりで浮かんでいるキューを軽く撫でて、俺は声をかけた。
「行こうか」
嬉しそうにちょっと跳ねてから付いて来るのが可愛い。本当にいい相棒になれる予感がした。
もちろんその日はそこで探索も終了だ。明日の朝から五階層にチャレンジする事にして、キューと共によろずの宿屋に久しぶりに帰る。
「いらっしゃ……あー! ライア、お帰り!」
「もう七階の宿屋の方に行っちゃうのかと思ったよ。帰って来てくれて嬉しい!」
よろずの宿屋の看板娘サクと、その弟のロンが満面の笑顔で迎えてくれる。今日もふわふわ赤毛とそこから飛び出している猫耳が可愛い。
「まだ七階まで行くのは危険な気がするし、ここは居心地がいいから多分もう少しお世話になると思う」
「なら嬉しいなぁ」
「三階ってやっぱりお客さん少ないんだよねぇ」
それは分かる。三階層くらいまでは宝箱の中身も大した事はないし魔物も弱い。普通はさっさと上層に登って、実入りがよく経験値も稼げそうな場所で鍛錬するものだ。七階層はその過程で奥まで入り込んで宿を見つける事があると言う事なんだろう。
「あれ、ライア……これって」
「ああ、さっき聖龍様から貰った。キューって名付けたんだ、これからは俺の相棒になる」
「へぇ、使い魔貰えたんだ。良かったねぇ」
「そっか、ライアはソロだもんね。聖龍様ってホントその人に合ったご褒美をくれるわよね」
「人によって貰える物が違うのか?」
驚いて思わず尋ねたら、「もちろん」と返ってくる。
「聖龍様はそういうとこ、丁寧だよねぇ。ね、キューちゃん」
「そうか、聖龍様はマメな方なんだな」
サクがキューを撫でてくれる。二人が聖龍様、聖龍様って呼ぶから、俺もいつの間にか様付けで呼ぶようになっていた。
美味しい飯を食ってひとっ風呂浴びたら久しぶりのベッドだ。キューにもタオルをかけてやって「おやすみ」なんて言ってみた。寝るのかどうかは知らないが、おとなしくしているから問題ないだろう。
明かりを消してフカフカのベッドの感触を楽しんで……すぐに眠気がやって来るかというとそうでもない。
外敵がいない静かで守られた環境になると、途端に思い出すのがカーマインの事だった。
目を閉じているのに思い出すのはアイツのことばかり。自分から別れを告げてこうして塔にまで入ったというのに、大概俺も執念深い。自分でも苦笑が漏れる。
笑った顔、怒った顔、泣いた顔、困った顔……カーマインの色々な表情が閉じた目の中で踊る。泣いた顔なんて子供の時に見たっきりだったから、泣き顔だけは子供の時のままのカーマインで再生されるのが年月を感じて可笑しかった。
仕方ないよな、だってこんなガキの頃から好きだったんだ。そう簡単に忘れられる筈もない。
何かを思いついて「一緒にやろうぜ」ってキラキラした顔で誘ってくれる時の顔が一番好きだった。カーマインの思いつきを叶えたくて、俺はいつだって一所懸命だった。
「カーマイン……」
エリスとは恋人同士になれたんだろうか。
カーマインは、恋人にどんな風に触れるんだろう。あいつでも、色気のある顔をするのかな……。
大人になったカーマインの悩ましい姿を想像したら、心臓がどくん、と高鳴って一気に体が熱を持つ。
はぁ、とひとつ熱い息を吐き、暗闇の中俺は自身の股間に手を伸ばした。困ったことに、この塔で宿屋に泊まるようになって初めて、俺は自慰に耽るようになっていた。
これまではカーマインといつも一緒だったから、そういう欲望は鉄の意思で押さえ込んでいたわけだが、今は一人だ。咎める者もいなければ誰が迷惑するわけでもない。
カーマインの顔を思い浮かべながら、股間のものにゆっくりと刺激を与えていく。
いつもキラキラして好きだったカーマインの真っ赤な瞳。あの瞳が潤んだら……もしも情熱的に見つめられたら、どんなに幸福な気分に浸れるだろうか。
ちょっと肉厚なあの唇に触れてみたかった。あの健康的な浅黒い肌に手を滑らせたら、どんな感触がしたんだろうか。舌を這わせ、小さな胸の粒に触れたら、いったいカーマインはどんな反応をしてくれたんだろう。
身体中触って、撫でて、キスして、舐めて……俺よりもちょっと高い声で、カーマインの喉から気持ちよさそうな声が漏れ出る様を想像するだけで股間はどんどんと高まっていく。
宿に入るとすぐに惜しげもなく晒される上裸。いつも見たい気持ちと見てはいけないという気持ちで葛藤していた。旅先でたまに一緒に風呂に入るような場面になったら、必死で心を無にして耐えた。
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