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第17話 【カーマイン視点】朗報
「クエスト完了……っと」
ダンジョンの中層の中でも奥の方でしか採取出来ない鉱石を、動きが鈍らない程度の量確保したオレは、そこで探索を終了して地上へと向かう。
今回受けてたいくつかの依頼分はこれで全て完了だ。一旦街に戻って新たな依頼と物資の確保をした方が効率がいいもんな。
次はもっと深い階層での依頼を受けてもいいかも知れない。ソロでの動きにも慣れて、中層なら危なげなく進めてるし、そろそろチャレンジしてもいい頃だ。ああでも、もっと深い層に行くなら今の装備じゃちょっと心許ないかもな。本当は買い換えた方がいいのかもしんねぇけど。
ライアが選んでくれて、その時のオレたちのほぼ全財産をはたいて買ってくれた剣。
金を自分で管理するようになったら余計に、その決断がどれほど重いかが分かる。アイツ、自分の装備はいつだって後回しにして、オレに出来るだけいい剣や防具を揃えてくれてたんだ。そう思うと剣も防具も大切過ぎて換えられなかった。
でも、ライアが『聖騎士の塔』に入っちまってからもう軽く一年以上が経っている。
毎日使い込んだ剣はかなりガタが来ているのも事実で、強力な魔物の硬い外皮と対決するには荷が重い。買い換えるべきだよなぁ、なんて考えていたらいつの間にか街まで戻って来ていた。
依頼の報告のためにギルドに向かおうとしていたら、急に声をかけられる。
「カーマイン!」
「おーい、ちょっとこっち来い!」
『聖騎士の塔』の門番のおっちゃん達がなんか大きく手を振ってる。
またお菓子でもくれるんだろうか。しょっちゅう塔に行ってたもんだからすっかり仲良くなった。オレをガキだと思ってるらしいおっちゃん達は、時々こんな風に呼び止めてお菓子をくれたりする。
オレも時々差し入れするから、ま、持ちつ持たれつか。
「おっ、ダンジョン帰りか」
「良かったなぁ、すれ違いにならなくて」
「どうかしたのか?」
「どーもこーもねぇよ! ついにお待ちかねの情報が入手できそうだぞ!」
その言葉を聞いた途端、俺は頭が真っ白になった。
「おいおい、聞こえたかぁ? お前の相棒、生きてたってよ!」
「ラ、ライアが? ホントに……?」
声も、体も、足も震えた。
生きてるって信じてた。アイツの事だから無茶なんてしないで、ちゃんと慎重に慎重に登ってるだけだって。
でも、何が起こるのかわからないのが冒険者だ。オレの家族もアイツの家族も、きっと思いもかけない事が起こって帰れなくなったんだ。
そう思うと怖かった。
アイツまでオレの前から突然消えて、二度と会えなくなるのかって気持ちが、振り払っても振り払っても浮かんできて、飛び起きる事だって数え切れないくらいあった。
良かった。
本当に、生きてて良かった。
「そう言やぁなんか、あのイケメン兄ちゃんから預かってるモンがあるって言ってたなぁ」
「えっ、ライアから?」
って事は、まさかライアと話したって事なのか?
「できれば直接渡したいから、ギルドで声をかけてくれってよ。まだあとひと月くらいはこの街にいるって言ってたから、ギルドのヤツらに聞けば分かるだろ」
「ホントに!?」
それなら願ったり叶ったりだ。元々もしライアの情報を持って帰ってくれるヤツがいたら、ライアの様子を少しでいいから教えてほしいと思ってたんだから。
「良かったな。まだギルドにいるかもしんねぇから、さっさと行ってこい」
「ありがとな! 今度おっちゃん達の好きな酒、一本ずつ持ってくる!」
「ばーか、ガキが気ぃ使うんじゃねぇよ」
「だって嬉しいからさ! あ、仕事中は呑むなよ!」
そう軽口を叩いたオレは、そのまま一目散にギルドへと走る。依頼物の鉱石なんかもいっぱい持ってた筈なのに、重さなんて感じないくらい、オレの気持ちは弾んでいた。
ギルドへ着くと、まずは受付で『聖騎士の塔』の攻略者情報を確認する。どうやらギルド付属の酒場で陽気に祝杯をあげているあの男四人組らしい。
声をかけてみたら、めちゃくちゃ一気にしゃべってくる。
「おお、お前が依頼者だったんか!」
「心配しなくてもライアってヤツ、ピンピンしてたぜぇ!」
「いや心配はするだろ」
「いやでも一年以上塔にいるって聞いてたのに、薄汚れてもいねぇし病んだ感じもまったくなかったよ。聞いてた通り……いや、それ以上だったよな」
「そうそう、サラッサラの銀髪でさぁ、肌も白くて男だっつぅのになんか色っぽかったよなぁ。ありがとうって微笑まれた時にはちょっとテンション上がったぜ。ちょっとコナかけようか迷ったもんなぁ」
聞き捨てならないセリフを吐く魔法戦士っぽい男をつい二度見したら、隣にいた治癒術師らしき男がすかさず頭に一発お見舞いする。ちょっとスッとした。
「ばーか。手ェだしてみろ、返り討ちにされらぁ。白銀の鎧にごっついソードスピア持ってたぞ。あれ絶対に高価いヤツだ。なんか塔に出る魔物も従えてたし」
「ま、魔物……? それ、ホントにライアか?」
さらにもたらされる驚きの情報に、聞き返さざるを得ない。
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