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第18話 【カーマイン視点】それ以外に言うことないのかよ

「間違いねぇよ、あんたが心配してるっつったら驚いてたぜぇ」 「その感じじゃアンタら二人っきりのパーティーなのか。そりゃあ心配だよなぁ」 「あ、ほら預かってたヤツ渡してあげなよ」 「ああ、そうそう。手紙な」 「手紙!?」 耳を疑った。手紙まで貰ってきてくれるなんて。ゴソゴソとあっちこっちのポケットを探してる様子すら待ちきれない思いだ。早く、早く見たい。ライアの痕跡を少しでも感じたかった。 ポケットじゃなくて結局はポーチから出てきた手紙は、マッピングに使う紙の切れっ端を折り畳んだだけの物で、それがいかにもアイツらしい。 「ライアだ」 アイツが使いやすいって言ってたお気に入りのマッピング紙。新しいダンジョンに挑む時はいつも大事そうに持ってた。ああ、間違いなくライアだ、と思うと心が跳ねる。 「ありがとう……!」 ちょっと泣きそう。 「かーわいいねぇ、手紙握りしめちゃって」 急に頭を撫でられて、ぎょっとして見上げたらさっき殴られてたチャラっぽい魔法剣士だった。 「恋人が一年以上も塔にこもってるんじゃ寂しいでしょ。オレが慰めようか?」 「はぁ?」 「一晩でも二晩でもっいてててててて!!!!!!」 ポカンとするオレの目の前で、チャラ魔法戦士は治癒術師っぽいヤツから腕を後ろに捻りあげられている。 「ギブ!!!ギブギブ!!!」 「ごめんねぇ、コイツ悪いヤツじゃないんだけど、男も女もいける上に節操のないタイプなんだよ。ちゃんと捕獲しとくから安心して」 「は、はぁ……」 多分リーダーの魔術師が眉を下げてオレに謝ってくれている横で、チャラ魔法剣士と治癒術師による舌戦はなおも繰り広げられていた。 「お前はアホか。一年ぶりに恋人の消息がはっきりしたんだぞ。今日は手紙を抱きしめて眠るのがセオリーだろうが!」 「ハッ、さすがは童貞、夢みがちだねぇ。心と体は別モンなんだよ。ねぇ君、一人寝が寂しい夜は呼んでね、いつでも相手になるからね」 「余計なお世話だ」 こりないチャラ魔法剣士に、ついつい口調もキツくなる。でもそれくらいでめげるような男でもなかったらしい。 「つれない態度も可愛い」 チャラ魔法剣士はなぜか楽しそうにニコニコと笑っている。さっきからオレとライアが恋人だって決めつけられてるのがめっちゃ気にはなるけど、否定すれば否定したでこのチャラ魔法剣士がもっとウザくなる気がして否定もできない。 「ああもう、話が進まないからバーニーに沈黙かけといて」 「ラジャ」 ついに強制的にだまらせられてしまった。チャラ魔法剣士よさらば。 「なんか悪かったね」 「いや、ライアが生きて頑張ってるって分かった上に手紙まで届けてくれたんだ、感謝しかねぇよ。ホントにありがとう」 「ま、ついでだからね。他になんか聞きたい事とかある?」 「あっ、じゃあさ、えっと、ライアと会ったのって塔のどの辺? まだまだかかる感じなのかな。あとどれくらい待てばいいのかが分かんなくてさ」 「会ったのは六階だったよな」 「探索できるのは八階までだから結構上層まで来てはいるよね」 「ホントか!?」 嬉しくなってつい身を乗り出してしまった。でも、リーダーらしき魔術師はちょっと苦笑する。 「うん、でも結構時間はかかるかもねぇ」 「だよな。六層までで一年かかってるならかなり丁寧にダンジョン探索してるんだろうし」 「あとさぁ、七階と八階はやっぱ魔物が段違いに強いよ。あれをソロで倒しながら進むの、めっちゃ時間かかると思うなぁ」 彼らの話によれば、その塔の上層階にいるのはオレが今戦ってるダンジョン中層の魔物なんて足元にも及ばない強さの魔物らしい。聞いた事もない魔物で、オレなんかじゃどれくらい強いのか、想像も出来なかった。 でもライアが退治する魔物がどれくらいの強さなのか、それは分かっておきたかった。オレでも分かるような強さの指標が欲しくて、オレは頭を捻ってこう聞いてみた。 「じゃあさ、ダンジョンの深層って行ったことある?」 「もっちろんあるさぁ!」 当然! みたいな返事が返ってくる。 「深層の魔物で言ったらさ、どれくらいのヤツ?」 「んー……どうだろ。十一層? 十二層? あの辺の魔物じゃないかなぁ」 「マジか……」 さっきまでオレがいたのは七層だ。あと四、五層下まで潜るのか、と思ったら気が遠くなる。 この街のダンジョンってさぁ、下に行けば行くほど、一層下りたら魔物の強さが段違いなんだよ。七層で軽く勝てるようになったからって八層を舐めてかかるとパーティーでも全滅する事もある。 絶対に気を抜く事なんてできない、へたすりゃ即死コースだ。 「あの塔もだけどさ、ぶっちゃけソロだとかなりキツいと思うよ」 「だよなぁ、オレらだって下の方はサクサク進めたのに、そこから上は時間かかったもんなぁ」 「な、4人がかりなのにな」 その言葉に、オレは真顔で頷くしかなかった。それでも、きっとライアは絶対に諦めないと思う。 彼らに礼を言って追加の報酬を渡して、依頼の終了報告や集めた素材の換金を済ませたオレは、足早にギルドを立ち去った。

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