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第19話 【カーマイン視点】あの日の手紙
ライアが『聖騎士の塔』から出てきた時には、ダンジョン十二層の魔物でも一人で狩れる凄腕になってるってことだ。オレだって負けちゃいられない。
でももちろん無茶して死んだら元も子もない。ライアもすごい装備してたって言ってたもんな。ちゃんとした武器を買って、オレも明日から深層に潜ろう。
でも。その前に。
大急ぎで馴染みの宿に部屋を取り、飯と風呂を済ませる。ダンジョン帰りで久しぶりに会うヤツらからの呑みの誘いも、今日は全部断った。
ベッドにダイブし、いよいよライアからの手紙を開ける。ワクワクし過ぎて、手が震えた。
「…………」
急いでなぐり書いたようなたった数行を何回も何回も読んで、オレはごろっと横になった。
「っんだよ、もう……!」
ちょっと涙が出る。
『勝手なことしてごめん』『俺の事は忘れて』『新たなパートナーと』
それ以外に言うことないのかよ……!
悔しくて悔しくて、また手紙をぎゅっと握りしめていた。
忘れろって言われてそんなに簡単に忘れられるなら、一年以上が過ぎた今まで待ってたりしないだろ。
バカじゃねーのか、アイツ。
「ちくしょう……」
丸くなったまま、俺はしばらく泣いた。
ひとしきり泣いて、込み上げてくる怒りと悲しさがちょっと収まってきたオレは、無意識に枕元に手を伸ばす。寝る時は必ず定位置に置いてあるそれは、もはや見なくても手に取れるようになっていた。
ライアが居なくなった時に置いていった手紙。
何度も読み返し過ぎて端と折り目がボロボロになったそれを、悲しい気分で読み返す。
……‥………………‥………………‥…………
カーマインへ
勝手な事をしてごめん。
お前がこの手紙を読む頃には、俺はもう塔に入っていると思う。お前にうまく話せているだろう自信が無いから、この手紙を書いている。
お前は真っ直ぐなヤツだから、俺の真意が分からないままだと気になって先に進めないかも知れない。それを回避するためにできるだけ丁寧に書くつもりだが、俺が言いたいのは結局、これだけだ。
俺がパーティーを抜けるのは俺に問題があるだけで、お前には何の非もない。
今後お前と行動を共にする事はないだろう。けれど、お前の幸せを誰よりも願っている。
すごい冒険者になって、たくさんの人を俺たちの腕で守る。離れていてもお前と交わしたその誓いだけは俺の生涯をかけて守るよ。それだけは信じて欲しい。
俺は、本当はずっと前から、いつかお前から離れる日が来るだろうと思っていた。何度か言った事があると思うけど、俺はずっとお前が好きで、でもお前は俺を好きになる事はないのが分かっていたからだ。
別にそれが悪いわけじゃない。誰を好きになるかなんて自由だし、コントロール出来るもんでもないのは身をもって分かっている。
俺はカーマインに幸せになって欲しいし、邪魔したいわけじゃないんだ。俺たちは早くに家族を亡くしたから、カーマインには可愛い奥さんとやんちゃな子供がいる、そんな幸せな家庭が出来るといいと本当に願っている。
ただ、それを傍で見ていられるほど俺は強くないから、出来る事なら、カーマインの幸せを兄弟のように願える距離を作りたかったんだ。
大人になれば兄弟だってそれぞれ独り立ちして別々の暮らしと家庭を築くだろう。俺たちも充分大人になったから、別々の暮らし、別々の家族を持って、それぞれの幸せを探す年齢になったのかも知れないとも思ったんだ。
だからカーマインがエリスを連れて来た時、独り立ちする時が来たんだなと覚悟した。
こんな気持ちをカーマインを前にして冷静に話せる自信がなかったばかりに、今までずっと言えなくて……突然離れるような真似をしてごめん。
俺は聖騎士を目指そうと思う。
聖騎士になれれば、きっともっと上位のクエストも受けられて、凶悪な魔物とも対峙できる。たくさんの人や生活を守る事ができるようになるだろう。カーマインと俺、別々にクエストを受ければ俺たちの誓いも効率よくやり遂げることが出来ると思うんだ。
俺たちみたいに親を亡くす子が、一人でも少なくなるといいよな。
最後にもうひとつだけ。
明日からはエリスがパートナーだ。彼女は初心者だから、最初はきっと戦力にならないしイラつく事もあるだろう。でも、俺たちだってそうだった。
俺たちも最初に魔物と出くわした時は木の枝で作った剣を投げ捨てて全力で逃げたよな。エリスも最初は頼りないかも知れない。けど、あの日の俺達を思い出して、長い目で見てやるといい。
頑張れよ。うまくいくように祈ってる。
さよなら、カーマイン。
ライア
……‥………………‥………………‥…………
「はは……」
思わず笑いが漏れる。アイツはいつだって矛盾ばっかりだ。
オレとの約束を守ると言うくせに、オレから離れて一人で聖騎士になるという。オレは『一緒に』すごい冒険者になって、たくさんの人を俺たちの腕で守ろうって言ったんだ。
都合のいいとこだけ勝手に切り取って、約束守ってる気になってるアイツがいっそ憎たらしい。
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