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第23話 幸福な痺れ

自分の体をぎゅっと抱きしめてベッドの中で丸くなれば、急にカーマインの顔が思い出されて胸が熱くなる。 死を覚悟すればするほど、二度と会わないと誓ったはずの最愛の男を思い出すのは何故なんだろう。脳裏に浮かぶカーマインの屈託のない明るい笑顔に、甘い疼きと苦しさが同時に胸を支配した。 会いたい。 あいつに会って、境目が分からなくなるくらい、ぎゅっと抱きしめたい。自分の方からあいつの元を離れたくせに、会いたいという感情がどうしても抑えられなくて辟易する。どうせ死ぬのなら、その前にあの瑞々しく日に焼けた肌に触れたかったと、本能が叫んでいるかのようだった。 抑えられない熱を逃したくて身じろいだら、自分から漂ったのだろう石鹸の匂いに妄想が掻き立てられる。 カーマインのヤツ、俺がいくら好きだと打ち明けても、これっぽっちも行動を変えてくれなかった。風呂から半裸であがってくるのなんかしょっちゅうで、そのまま体が冷えるまで、なんて嘯いてエールを飲みながら裸体を晒していた。 あのあられもない姿に、俺がどれだけ煽られていたか。カーマインは想像したこともないだろう。 洗ったばかりの石鹸の匂い。体から仄かに上がる湯気。適当に拭いた髪から雫が垂れてうなじを濡らしていくのがたまらなかった。舌を這わせればカーマインはどんな反応をしただろう。 はぁ、と自分の唇から薄く吐息が漏れる。 突き上げるような欲望に煽られて、俺は自身の分身を強く刺激した。 目の奥に、俺に抱きしめられ首筋を舐め回されて困惑するカーマインの姿が浮かぶ。風呂上がりの上気した体を後ろから抱きすくめ、いつもはハリがあって瑞々しい肌がしっとりと艶かしく濡れているのを感じたかった。 うなじの味を堪能し、カーマインの小さな胸の粒を弄りながら、下半身の屹立に手を伸ばして扱きあげる。カーマインのモノを刺激する妄想と自身のモノに感じる現実の快感がひとつになり、ぐんぐんと熱が高まって行く。腰が揺れ、手の中の屹立からはひっきりなしにトロトロとしたものが溢れ、滑りを促していた。 妄想のなかのカーマインが俺からもたらされる快楽に身を捩り、眉根を寄せて小さく喘いだ瞬間、俺の中で暴れていた欲望が熱い奔流となって爆ぜる。 「はぁ……っ」 気持ちいい。 カーマインも吐精したかのような錯覚に襲われて、胸の中が幸福に痺れた。 誤作動を起こした脳はもっともっとと欲望を煽り、俺はまだ荒い息の中で、カーマインの締まった太ももを、柔らかい内ももを撫であげる。あの真っ赤な瞳が悦楽に潤んでくれるなら、どんなにか幸せだろうに。 俺の想像の中のカーマインはいつでも困って、戸惑っていた。 唇を奪い、あのハリのある艶やかな肌を嬲る。酷く抵抗しないで体への刺激を享受してくれるカーマインを想像する事が精一杯で、まぐわう事なんて想像でも出来なかった。それはきっと、カーマインが俺に欲情することなんてないと分かりきっているからだ。 俺を友だとしか思っていない男を勝手に頭の中で穢すことに罪悪感を持ちながらも、淫らな想像を止めることなんてもう出来ない。 浅黒い肌に手を這わせ、口付け、ひたすらに愛撫する様を思い描いて、俺はその夜、寝落ちするまで自身を慰めた。 *** 翌朝風呂に入って身も心もさっぱりした俺は、いよいよ塔の九階層に足を踏み入れた。 どこまで続くか分からない『聖騎士の塔』。宿屋での情報交換も塔の構造やトラップに関してはご法度になっていて、どうなっているかは俺も知らない。ルールに抵触すると塔から弾き出され、どうやってか恐ろしい制裁が加えられるのだと聞くと、チャレンジする気にはなれなかった。 人智を超える力に無駄に逆らうのは賢い選択とは言えないからだ。 外からでは想像できない程の広大な塔だ。上限もどこまであるか分からない。永遠に続くと思って登ってきたわけだが、どうにもこの九階層は様子がこれまでと違っていた。 これまではひとつひとつの脇道がかなり奥行きがあって複雑で、歩いた先が幾重にも枝分かれしているような造りだった。隠し扉やトラップも沢山あって、だからこそ探索に時間がかかったしマッピングもやりがいがあったんだ。 それなのにこの九階層は脇道というほどのものがほとんどない。一本の道から伸びる大量の脇道だった筈の所は、長くても二十歩程の奥行きしかなく、その全てに一見カラで聖力が大量に入手できる宝箱か聖力溜まりがあった。 聖力メーターを持っていなかったら、そんな事にも気づけなかったかも知れない。改めて貰った物の存在の大きさに感謝する。 この階層でたっぷりと聖力を確保しなさい、と微笑む聖龍様の顔が脳裏に浮かんで、少し楽しくなった。あの方のことだからこの階層まで生きて上がってきた褒美だとでも言うのだろう。 魔物を倒した時に得られる聖力も多くて、これならば数日この階層で修行を積めば、メーターを満タンにする事もできるんじゃないかと思えるくらいだ。

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