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第24話 カーマインの手紙

魔物を倒し聖力を回収しながらどんどん進んでいくと、後ろに気配を感じて振り返る。やはり遠くに二人組のパーティーの姿があった。どうやら俺が通り過ぎた階段から上がってきたよう。魔物じゃなくて良かった、とホッとしていると、その二人が俺を見つけて駆け寄ってくる。 「その姿……もしかして君、ライア?」 「ああ」 覚えのあるやり取りだ。 「やっぱり。良かった、手紙って受け取ったかい?」 「手紙? いや、受け取っていないが」 「そうか、じゃあ僕たちが一番のりだな」 男は嬉しそうに隣の女魔術師と笑い合った。なんだか仲睦まじそうで微笑ましい。ここまで助け合って登って来たんだろう。カーマインとエリスも、こんな風に助け合って、笑い合っているのだろうか。 「君に手紙を預かってきたんだ。カーマインって人かららしいよ」 「カーマインが……?」 カーマインが、手紙!? 意外すぎてびっくりする。だって字を書くのが嫌い過ぎて宿屋の台帳ですら俺に書かせるのに。 ああ、あの時俺が書いた手紙への返事なんだろうか。カーマインにしては律儀だと思いながら手紙を受け取り、お礼に高級ポーションを渡して彼らと別れた。 本当にカーマインが手紙なんて書くのかなと半信半疑で開けてみると、きったない字でたった三行の殴り書き。逆にカーマインらしくて笑ってしまう。 けれど、文字の意味を理解した途端、俺は頭の中が?でいっぱいになった。 ……‥………………‥………………‥………… 待ってる 絶対生きて帰って来い 浮気すんなよ ……‥………………‥………………‥………… 待ってる、という言葉に強く罪悪感を感じる。 前回の手紙を渡してから音沙汰がなかったから、きっと分かってくれているんだろうと勝手に思っていたけれど、きっとカーマインは納得が行かなかったんだろう。 勝手な事をしてこんなに長期間カーマインを拘束してしまった。あんなに、たくさんの国を回る事を楽しみにしていたのに。 でもそれよりもずっとずっと気になったのは、最後の一文だ。 「浮気すんなよ」って……どういう意味だ? その時、急にキューがオレの懐に飛び込んできて、魔物が近付いたのだと理解した俺は素早く手紙をポーチにしまってソードスピアを構えた。ここは呆然としていい場所じゃない。 手紙の事をじっくり考えるのは宿に戻ってからだ。強くそう心に決めて魔物を倒し、九階層の探索を進めていく。 早く宿に戻って、考えたい。 こんなにもこの階の全てを探索していく事にもどかしさを感じたのは初めてだった。 それでもさすがに九階層ともなればオレも手際が良くなっている。効率よく全ての探索を終え宿屋に戻ったのは、多分その日のうちだ。脇道の探索やトラップがないとこれほど呆気ないのかと少し驚く。 飯と風呂を手早く済ませ、キューにいつものごとくタオルをかけてやって、ベッドの中に潜り込んだ。 大切に持ち帰った手紙をもう一度開いて、カーマインの殴り書きを読み直すけれど、最後の一文ばかりが際立って見えてしょうがない。 「浮気すんなよ」って……もしかして、他に目移りするなって、カーマインを好きなままでいいと言ってくれているのだろうか。 そう考えて、でもそんな筈がないと打ち消す。 自分の都合の良いように考えてしまう自分に苦笑してみたものの、やっぱりどう考えてもカーマインが受け入れてくれたって事じゃないのかと、心のどこかでつい期待してしまう。 何度も何度も同じ思考の間を行ったり来たりして、気持ちは上がったり下がったり、まるで大きな波にでも揺さぶられているかのようだ。 悩み過ぎて自慰さえ出来ずにそのまま寝落ちしたオレは、その夜初めて、カーマインからオレにキスしてくれる、幸福な夢を見た。 *** それから数日後、ついに聖力メーターを満タンにした俺は、満を持して九階層最奥の袋小路、聖龍様出没ポイントに来ていた。いつも通りに聖龍様を呼び出してはみたものの、聖龍様は出てくるなりなんだか楽しそうだ。 「これは困った」 そんな事を言いつつ聖龍様は面白そうに笑っていて、全然困った風には見えない。どういう意味だろうかと小首を傾げていたら、聖力メーターを渡すように言われる。聖龍様はそれを簡単に検分して、うむ、と頷いた。 「やはり上限に達しているな。ここは本物の私に会う前の最後のポイントだからね、大量の聖力が褒美だったのだよ」 「なら大丈夫です。オレ、キューを助けて貰っただけで充分過ぎるくらい褒美はいただきました」 本当にそう思っているのだが、聖龍様は納得がいかないらしい。 「うーん、だがおぬしは誰よりも私の塔を愛でてくれただろう。私はおぬしにこそ、この塔を制覇した記念の品をあげたいのだよ」 なんとも有り難い話だ。でも、多分誰よりもたくさん記念の品を貰ってる気もするんだが。 「……まぁ良い、まずは私の居城においで。聖魔法を覚えている間に、私の宝の中から欲しい物を選べば良い」 いつもながら気前のいい聖龍様は、その言葉と共に一瞬で俺を居城へと招いてくれたのだった。

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