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第25話 【カーマイン視点】忘れるなんて許さない
ダンジョン深層の11層。
オレは12層への階段を探して奥へ奥へと進んでいた。
これまでは11層の転移ポイントを起点に探索と魔物の討伐を続けて来た。この11層にもだいぶ慣れて、手強い魔物にもそんなに手こずることもなく勝てるようになっていた。それなりにデカい傷も負うけど、そんなモンはポーションで騙し騙し行くしかない。
でも、深層に入ってからは意外と探索もレベル上げもやりやすくなった。なんたって『転移ポイント』なんてモンがあるんだから。
中層までは今までいろんな街で潜ってきたダンジョンとなんも変わんなくて、下層に行くのに近道なんかなかった。深く潜ろうとすればする程、上の階も漏れなく突破しないといけないから膨大な時間がかかる。
でもこの街のダンジョンは違った。
深層と言われる八層より先は、その層毎に転移ポイントがあるんだ。その層の転移ポイントを一度でも踏めば、入り口の衛兵の詰所の中に設置してある転移ポイントに跳べるんだから最初はホントに驚いた。逆に詰所からは踏んだことのある転移ポイントに移動可能だ。
今まではどんなに面倒くさくても、いちいち上の階を通ってたのが一瞬で省略できるんだから本当に話が早い。
なんでダンジョンにそんな便利なモンが、って思ったけど、どうやらあの『聖騎士の塔』の主、聖龍とやらが関係してるらしい。
この街にくるまで龍なんて御伽噺だと思ってたけど、実在する上にダンジョンに転移ポイントを作っちまうようなとんでもない存在だとは。そんな異次元の存在から魔法を習おうとしてるライアもよく考えればぶっ飛んでる。
アイツも強くなってるだろうけど、オレも負けちゃいないと思うんだけどな。
『聖騎士の塔』にアイツが籠ってからそろそろ二年くらい経つんじゃねぇかな。この二年でオレは腕だって結構太っとくなったし、身長だって伸びた。傷もいっぱい増えたけど、おっちゃんたちにもだいぶ面構えが良くなったって褒められる。
装備に金を使いたいから酒もほどほど、結構体も出来上がってきたと思う。娼館には行かなくなってかなり長い時が経っていた。ライアを思い出せば気持ちよくヌけるから、別にそれで困ってるわけでもない。
ライア戻ってきたら絶対に押し倒すんだから、それまでは我慢だ。
「………っ」
急にチリ、と首筋に殺気を感じて、無言で跳躍した。
さっきまでオレがいた場所に、エグい音を立てて、巨大な斧が突き刺さる。
ミノタウロスだった。
この11層の中でも、かなり上位の危険な魔物。一瞬でも遅れをとれば、こっちが殺られる。でも、スピードならこっちが上だ。幸い斧を投げてきたお陰であっちは素手だ。べらぼうに力が強いからそれでも強敵だけど、今ならオレにだいぶ分がある。
的を外して怒りの雄叫びをあげる巨体に向かって、オレは高く跳躍した。
あの手に掴まれたら負けだ。剣なんて簡単にへし折られて、ついでにオレの体だって簡単にへし折られるだろう。
ヒットアンドアウェイでちょっとずつダメージを蓄積する。外皮が硬いから、傷をつけるだけでもひと苦労だ。それでも諦めずに腹に与えた傷を狙って何度も攻撃すれば、傷もやがては深くなる。
動きが鈍くなったところに一気にトドメを刺せば、巨体は地響きを立てて倒れ込んだ。
もう動かないのを確認してから討伐証明の二本の角を切り取り、オレは大きく息をついた。
さすがにミノタウロスとの一騎討ちは体力を持っていかれる。ポーションも残り少ないし、あのデカい斧を売ればそこそこ金になるだろう。剣ももうちょっと使えるかとも思ってたけど、ミノタウロスの硬い外皮を何回も斬りつけたから結構ダメージを受けてるっぽい。
12層への階段を探し当てるのは次くるまでおあずけだな、と腹を決めてオレは元きた道の方へと引き返した。無理はしない。オレは生きてライアに会うんだから。
11層の転移ポイントに到着するまでにさらに数体の魔物を屠って戦果を増やす。今回も悪くない戦績だった。
***
街に戻ってギルドで諸々換金して身軽になったら、まず向かうのは勿論『聖騎士の塔』だ。
ま、行ったところで何の変化もない事がほとんどなんだけどさ。やっぱりつい行っちゃうよな。もしかしたらライアが戻ってるかも、って期待するのは自分でも止めようがない。
だってさ、ひと月くらい前に戻ってきた男女二人組のパーティーが、オレの手紙をライアに届けたって言ってたんだ。そいつらは九階層っていう、てっぺん直前の階層でライアと会ったって言うんだから、期待しないわけがない。
何回も何回も同じ手紙を書いて門番のおっちゃん達に託したけど、渡したって言ってくれたのはあの二人組だけだった。でも、一通だけでもアイツの手に渡ればこっちのもんだ。
書いた文面を思い出すとニヤニヤが止まらない。
ライア、あの手紙読んだんだよな。
どう思ったかな。
どういう意味かって考えて、悩んで、悶々とすればいい。オレを忘れるなんて絶対に許さない。
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