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第26話 【カーマイン視点】今日もダメかぁ
ライアが既に心変わりしてるって可能性は出来るだけ考えないようにしてる。本当はさ、オレが変わったみたいにアイツだって変わるかもって不安はないわけじゃないんだ。
だって離れてから二年も経ってるし、二度と会わない、忘れろって言われてるし、聖龍は尋常じゃなく美形だっていうし。
でも、オレだって忘れられないんだ。おんなじだけ一緒にいたんだから、アイツだって忘れられない筈だって思いたい。心変わりする可能性をちょっとでも減らしたくて、大っ嫌いな文字だっていっぱい書いた。
オレの事忘れようって考えてる頭に横槍を入れて、嫌でも思い出させてやりたい。
アイツが塔から出てきたら、絶対に逃げられないように引っ捕まえて、ギッタギタのメロメロにしてやるんだ。
ライアが塔の中から出てくるのだっていつになるか分からないのに、そんな事を考えながら『聖騎士の塔』に向かう。門前には、いつものおっちゃん達がいた。
「おっちゃーん、久しぶり!」
「おーカーマインか! お前も飽きねぇなぁ」
「今回はちょっと間が空いたんじゃねぇのか?」
門番のおっちゃん達は、いつも通りめっちゃフレンドリーに挨拶を返してくれた。
「ダンジョンに潜ってたからな。今は下層への階段探してるから、ちょっと奥まで行ってるんだよ。それよりライアは? まだ?」
「まだだなぁ。出てきたらいの一番に教えてやっから」
「ホント健気すぎて涙が出るわ」
腕で涙を拭うようなフリをして見せて、おっちゃんがにかっと笑う。こんだけ足しげく通ってるんだからからかわれるのはもう仕方がない。それでもちょっとだけ唇が尖ってしまった。
「別に健気ってワケじゃねぇよ」
「健気だろ。宿も塔のど真ん前にしたんだろ。ちょっと高いぞ、そこ」
「いいだろ、別に」
だって塔の出入り口が見えるんだ。こんないい立地は他にない。ちょっとお高めの宿に泊まれるくらいは稼いでるし、問題ないったら問題ない。
「まぁまぁ、今回はちょっとは長く街にいるのか?」
「うん。やっぱり深層ともなると魔物も強くてさ、結構ダメージくらったから、ちゃんと回復してからまた潜る。次はもう一階下まで行きたいし」
「そっか、頑張れよ」
「お前のライアが出てきたら、宿まで教えに行ってやらぁ」
「よろしくお願いします!」
オレが全力で頭を下げたから、オレをおちょくってたおっちゃんも「しょうがねぇなぁ」と笑って、本当に教えにきてくれるって約束してくれた。もう恥も外聞もない。二年も待ってすれ違ったら笑い話にもならないんだから。
おっちゃんたちと別れて塔の目の前のオシャレな宿に泊まる。
塔の出入り口が見下ろせるいつもの窓辺に座って、門が閉まるまでの時間を夕焼けと共に過ごした。宵の鐘がなったら明けの鐘までは入る事も出る事もできないらしい。
門が閉まるギリギリまで「出てくるかも」って期待して、門が閉まったら落胆する。もう何百回と繰り返してるんだから慣れっこじゃあるんだけど、やっぱり門が閉まる瞬間は切なくて胸がキュッとなってしまうんだ。
「今日もダメかぁ」
宵の鐘を聞いたら窓からおっちゃんたちに手を振って、飯を食ったり洗濯したり風呂に入ったり酒を飲んだり。その日やるべき事を集中してやるのがルーティンだ。
ライアがいた頃はダラダラしてよく困った顔されてたけど、今はやりたい事があるから雑事はテキパキ済ませることにしてる。オレも結構大人になった。
ま、やりたい事って言ってもアレだけど。
ポーチの中からいつもの三点セットを取り出して、オレはいそいそとベッドに向かう。
ライアから貰った二つの手紙と、俺たちの宝物の守護石。
手紙には悔しくて悲しい言葉がいっぱい並んじゃいるけど、この手紙と守護石さえあればライアの顔なんて思い出し放題だ。
ベッドに入ってライアの顔を、声を思い出す。
なんでもすぐ口に出すオレと違ってライアはなんでも考えてから喋る方で、いつだって穏やかな声で、冷静な話し方をするヤツだった。
高くも低くもない耳当たりのいい声。オレはあの声でカーマイン、って名前を呼ばれるのが好きだった。
ガキの頃から、一番たくさん聞いたあの声。
「俺、カーマインが好きだ……」
そう呟く時だけ、アイツの声はいつも苦しそうだった。
見上げるとやっぱり顔も苦しそうで。
イヤなヤツにもしらねぇヤツにも変わらねぇ、微笑んだような顔ばっかしてたアイツ。感情が読みにくいってよく言われてたけど、オレへの気持ちを吐く時だけは、心底困り果てた悩ましげな顔だった。
「……は、ぁ」
もう一回あの顔で、あの声で、「カーマインが好きだ」って言ってくれねぇかなぁ。そうしたら今度こそ「オレも!」って飛びついて、押し倒して、チューしまくって、泣きが入るまで抱き潰してやるのに。
アイツの端正な顔が快楽でグズグズに蕩けるまで甘やかして、翡翠みたいな緑色の瞳が涙で濡れるまでゆさぶって、声が枯れるまでアンアン言わせてやるのに。
そんな妄想をしては快楽に耽る。
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