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第30話 こんな夢みたいな事があっていいのか

カーマインの顔がゆっくりと近づいてきて、チュ、とリップ音が聞こえる。 唇に温かい、濡れた感触が二度、三度と与えられ、クチュ、と熱い舌が侵入してきた。舌を吸われて、カーマインの舌の熱さを体の内側で感じて、脳みその中が沸騰しそうだった。想像の中ですらなかなか与えられなかったカーマインからの熱量のあるキスに、胸が震える。 こんな事があっていいのか。 こんな、夢みたいなことが。 「泣くなって。やっとオレの涙が止まったのに、今度はお前かよ」 「……カーマインから触れてくれる事なんて、一生ないと思ってた……」 「もうやめてって泣きが入るくらい触りまくってやる」 冗談めかしてそう言ってから、カーマインは俺の目をじっと見つめて真剣な顔になった。 「ちゃんと信じたか? オレの気持ち」 頷く。カーマインの目があまりにも真剣で、また涙がじわりと浮いてきてカーマインがぼやけてしまった。こんなに幸せな瞬間、見逃したくないのに。ぼやけた中にカーマインの赤い瞳が滲んで見える。それがとても嬉しい。 「もう勝手にいなくなるなよ?」 「……っ」 コクコクと頷いたら涙がボロっと溢れて、カーマインの満足そうに笑う顔が見えた。カーマインが俺の涙をグイッと乱暴に拭ってくれて、視界がクリアになる。 「絶対だからな。約束、破るなよ?」 そう言ってチュ、と軽くキスしてくれるカーマインは、最高にカッコ良かった。 「あー可愛い。お前ってやっぱ美形だったんだな」 顎の下まで垂れていたオレの涙をグイグイと拭ってくれながら、カーマインが笑う。俺より早く泣いた分、早めに涙から立ち直ったカーマインは、俺がよく知る笑顔に戻っていた。 「せっかくだからこのままイチャイチャしたいけど、やる事やってからだな。お前、ギルドに行かなきゃなんだろ?」 「ああ。報告しなきゃ」 「で、塔から出てきたんだから、聖龍に会って聖魔法覚えられたんだろ?」 「ああうん、聖騎士になれた」 「へー聖騎士。……えええ!!???」 カーマインが凄く驚いてるけど、正直俺も驚いてる。 結局俺は聖属性の攻撃魔法最高位、ホーリーを習得し、聖騎士の称号を獲得することが出来たのだった。 貯めた聖力の多さによって教えてくれる魔法が違うらしいから、多分俺がソロで、塔の隅々まで探索するようなマメなタイプだったのが良かったんだろう。俺的には一階層で聖龍様に出会えてその仕組みを教えてもらえた上に聖力メーターを貰えたからこそ叶えられた快挙だと思っている。 「聖騎士って……聖騎士? 門番のおっちゃん達が、数百年で何人かしかいないって言ってた、その聖騎士?」 「それだと思う。俺、すごく運が良かったんだ。あとこれ、お土産」 俺は、大事に腰に携えていた剣をカーマインに手渡した。もしカーマインに会えたらいの一番に渡そうと思っていたのに、突然色々ありすぎて忘れていた。 「すげ……っ、なんだこの軽さ。見ただけですげぇ剣だって分かる。どうしたんだ、これ」 「聖龍様がもってる宝の中から何かくれるっていうから、一番性能が良い剣を貰ってきた」 九階層の褒美として聖龍様がくれたものだ。なんでも選んでいいと言われたから、考えた末この剣をもらう事にしたんだ。カーマインを待たせてしまった詫びであり、この剣とともにこれまでの感謝を伝えたいと思っていた。 もっと値がはるものはいくらでもありそうだったけど、俺たち冒険者にとって大切なのは価格じゃなくて性能だ。デザインはシンプルで刀身も細い。けれど特殊な金属で出来ているらしく切れ味と耐久性が抜群に良いのだと聞いた。 きっと、俺の代わりにカーマインを永く守ってくれるだろうと思っての選択だった。 「せっかく何かすごい宝物を貰えるなら、カーマインのための物が欲しいと思ったんだ」 「え、なんで」 「俺のせいでカーマインをこの街に縛り付けてしまったから……そのお詫びと、これまで一緒にいてくれた感謝の気持ち」 「ライア……」 「ごめんな。色んな土地に行って、行く先々で色んな人を助けるってのがお前の夢なのに、二年もここに足止めしてしまった。手紙を貰って、もしかしたら塔を出た時にカーマインが待っててくれてるのかもしれないと分かった時、カーマインの夢を随分と邪魔してしまったこと、どうしても詫びたかったんだ」 「お前は分かってないんだろうけどさ、その夢だってお前が一緒じゃねぇと意味ねぇんだよ」 「……っ」 拗ねたような顔でそんな風に言われて、俺は胸を突かれたような気持ちになった。カーマインがそんな風に思ってくれていたなんて考えた事もなかった。あの夢より、まさか俺の方が優先されるだなんて。 「まぁでも、お前の気持ちは嬉しいから有り難く貰うけどな。どう見てもすげぇ剣だし」 「うん。貰い物で申し訳ないけど、こんなに素晴らしい剣はどれだけ金を積んでも手に入らないと思う。俺の代わりにカーマインを守ってくれるんじゃないかって思ったくらいだから」 「お前なぁ…… ま、いいや。この剣にも守って貰うけど、これからは隣で、互いに、守っていくって約束しろ」 カーマインは呆れたみたいな声を出したけれど、改めてぎゅ、と抱きしめてくれた。

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