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第31話 【カーマイン視点】ちょっと悔しい

ライアが気軽に『お土産』ってくれた剣は、オレが買おうと思ってた剣なんか比べ物にならないくらい、凄い剣だった。初めて持つのに手に馴染んで、少し振ってみただけでも振り抜きやすい重さだってのが分かる。しかも切れ味よく耐久性が高いなら、思う存分剣を振えるわけだ。めちゃくちゃ有り難い。 さっきまではライアしか目に入らなかったけど、よく見たらライアの装備も物凄い。ソードスピアもアーマーも白銀のかっこいいデザインで、いかにも聖騎士って感じの出立ちだ。 しかもライアの顔の隣でふよふよ浮いてる変な丸いものもいる。これがもしかして、冒険者が『塔にいる魔物を従えてた』って言ってたアレなんだろうか。 ライアは二年の間にオレの想像よりも遥かにレベルアップしてしまったらしい。 「つーか、よく見りゃライアの装備もすげーな」 「うん。塔の中にある店の品揃えが凄かったんだ」 「しかもまさか本当に聖騎士になって帰ってくるなんて思わねーじゃん。すげぇな、お前」 「……ありがとう」 気持ちのままに褒めたら、ライアは照れたみたいに笑った。 「俺はカーマインと違って槍も魔法も体力もそこそこだったから、どうしてももっと使える魔法幅が欲しかったんだ。これから上の依頼を受けるのは俺じゃ難しそうだって思ってたから」 それで聖騎士にまでなるってどんだけだよ。ちょっと悔しい。 「参ったなぁ。オレだってお前に負けねぇようにって結構頑張ったのにさ、絶対めっちゃ実力差あいてると思う」 「カーマインが凄く頑張ってたっていうのはよく分かる。体や腕が随分大きくなってる。すごく鍛えたんだろ? それに身長だってびっくりするくらい伸びた」 ライアはそう言って優しい目でオレを見上げる。いつの間にかオレ、ライアの背を追い越してたんだなぁって思うと感慨深い。聖騎士になったっていうんだから随分強くなってると思うのに、ライアは塔に入る前とそんなに姿形も話し方もあんまり変わってないみたいだ。 装備が立派になって、サラサラの銀髪がサラサラのままめっちゃ伸びてるだけ。白くて細くて穏やかな、オレのライアのままだった。 「それに……細かい傷がいっぱいある」 「あー、ポーションも無駄遣いは出来ねぇからなぁ」 「そういえば、エリスは?」 はたと気づいたようにライアがそんな事を言うから、笑ってしまった。そうだよな、ライアは二年前の情報で止まっちまってるんだよな。 キョトンとしているライアにこの二年間であった事を話しながら、オレたちはギルドに行くために部屋を出る。いくら話しても話したりない、やっぱりライアが隣にいるのって最高に幸せだと思った。 さっき迷惑かけちまった門番のおっちゃん達に詫びを入れてから、ギルドに向かう。そしたらギルドにはもう塔から連絡がいっていたのか、ギルドマスターが表で待ち受けていた。 「遅せーぞ!!! 待ちくたびれたわ!」 「すみません」 「いいからさっさと入れ」 ギルドマスターの後についてギルドに入った瞬間、ギルドマスターがデカい声を張り上げる。 「野郎共ー! 53年ぶりの聖騎士様の誕生だぞー!!!! 祝え!!!!」 ウオオオオオオ!!! という、野太い男どもの歓喜の声が響き渡る。ギルドは久々過ぎる聖騎士の誕生に沸き、一目見ようという冒険者たちで溢れかえっていた。 それから早三時間ほど。 オレはグイグイ酒を煽りながら、一人でぶーたれていた。 ライアが塔での武勇伝を聴きたい他の冒険者達にもみくちゃにされてて、近寄る隙も無いからだ。本当はサッと報告してサッと帰って、二人で甘々な時を過ごすつもりだったんだ。 だって二年だぞ!? オレだってライアともっといっぱい喋ってエロいことも普通にしたいに決まってる。オレがどんだけライアで抜いてきたと思ってるんだ。 でも頑張って聖騎士にまで昇り詰めたライアが、有名な冒険者達にまで認められて酒注がれまくってんのは嬉しいし、でもライアを独り占めできないのは寂しいしで、めちゃくちゃ複雑な心境だ。 あんなにガバガバ注がれたら、酔い潰れたっておかしくねぇぞ。 「ようカーマイン、荒れてるなぁ」 「ライアのヤツ、すげぇな」 「あんだけ美形で聖騎士の称号まで得たとなっちゃあ、女も男もほっとかねぇだろうなぁ」 「ライアはオレのだから、誰にもやんねぇ」 呑み仲間が声をかけてきて、オレはついそんな事を口走っていた。だって、ちょっとだけ不安になるくらい、さっきからライアは色んなヤツからはっきり分かる色目を使われている。 もうさっさと連れ帰って部屋に閉じ込めるか、ダンジョンの奥深くに潜って人目に晒さないようにしたいくらいだ。 「おっ、なんだお前、宗旨替えしたのかぁ? 昔はよく娼館にも行ってたろ」 「そういや浮いた噂ひとつ聞かなくなったもんなぁ」 「逃げられそうになったからな、今はもうライア一筋だ。手ぇ出すなって皆にも言っといて」 「自分で言えや」 ギャハハハ、と笑う呑み仲間たちの軽口に、それもそうだとオレは席を立つ。 「違いねぇ、言ってくる。またな」 ライアを中心としたでけぇ人だかりの中をグイグイと割り込んで、何とかライアの横まで辿り着いた。 「ライア」 「カーマイン!」 ホッとした顔してんじゃねーよ。

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