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第36話 ★お礼SS【カーマイン視点】初めてのプレゼント

「けどさぁ、さすがにライアがこんなにもモテまくると、ちょっとだけオレも心配になってくるんだよな」 ふとそんな気持ちになってそのまま口にだしたら、ライアが怪訝そうに俺を見上げてくる。 「なにが?」 「いや、パーティーも恋人もさ、今のライアなら選び放題だろ。本当にオレでいいのか?」 率直にそう尋ねてみたら、ライアに鬼のような顔をされてしまった。 「本気で言っているのか、それは。こっちは十二年も片想いしてたんだぞ。カーマインでいいんじゃなくて、カーマインでなきゃダメなんだ。諦められるものならとっくの昔に諦めている」 顔から火が出るかと思った。 「『聖騎士』なんて称号を得たからといって物珍しさで寄ってくるような輩に、俺がグラつくとでもいうのか。お前は」 「分かった! 悪かった! 失言だったよ、ごめん。ライアがあんまりモテるから、ちょっと不安になっただけ……!」 そう言ったら、今度はめっちゃ切なそうな顔をされてしまった。 「……不安なのは俺の方だよ。やっとカーマインが俺の方を向いてくれたのに、愛想を尽かされやしないかってものすごく不安になる」 「それはねぇよ」 こんな顔をしてるライアは正直すごくそそられる。ここが宿だったら今すぐにでも押し倒してキスして、めちゃくちゃ可愛がるのになぁ、と思いつつ、オレはまだ何か言いたげなライアを押して表通りに出た。こんな裏道にいたら、人の目が少ないだけにキスしたくってしょうが無くなっちまう。 ところが、さすがは時の人。 場所がギルド近くって事もあるのか、またもやわらわらとライアめがけて大量の人が寄ってきた。その人達をなんとか躱しつつ職人街に辿り着く頃には、オレもライアもまぁまぁ疲れていた。 「うわ~、オレ、ライアにプレゼント買ってやりたかったんだけど、今日は無理かなぁ」 こんなに人目が多いと、ゆっくり選べないかも知れない。そう一人ごちると、ライアは目を丸くしてオレを見た。 「えっ、プレゼント?」 「うん。オレ達って装備は買い替えちゃうからさ、ずっと身につけていられる守り石みたいな物をプレゼントしたかったんだ。その……これからは、恋人だから」 「欲しい! カーマインからのプレゼント、絶対に欲しい!」 びっくりするくらい食いついてきた。物欲があんまりないライアがこんなにも反応してくれるとは正直思ってなかったら、嬉しくて、ちょっと照れる。 「そこそこの値段のヤツ選んでくれよ」 「値段なんか安くていいよ。カーマインから貰ったってのが大事なんだから。俺も、カーマインに何かプレゼントしたい」 「えっ、マジで。でもオレ、すげー剣貰ったし」 「あれはモノはすごくいいけど、聖龍様から貰ったものだ。俺が稼いだ俺の金で買いたい」 「そっか……そうだよな」 オレ達って生活もカツカツだったから、互いに贈り物しあうってこともなかったもんな。そもそも討伐とかで得た金はパーティーの金として纏めてライアに管理して貰ってたから、個人の金って感覚はなかった。今なら互いに、自分が稼いだ金って言えるものがあるんだよな。 自分の金でライアに何か買ってやれる。ただそれだけの事が無性に嬉しい、ニヤつきながら二人して冒険者御用達の宝飾店へと初めて足を踏み入れる。 これまではこんな贅沢品、買おうなんて思ってもみなかった。剣や鎧、盾に比べると、どうしてもアクセサリー系は後回しになるもんだ。オレらも稼げるようになったんだなぁ。 「どういうのがいい? オレ、あんまりアクセサリー系はわかんねぇんだ」 「できれば揃いの指輪がいい。指か腕が落ちない限り失くさない」 「例えが怖い。どんだけ失くしたくないんだよ」 「カーマインがくれる初めてのプレゼントなんて一生失くしたくないに決まってる」 困った。ライアがちょいちょい心臓を殺しにくる。 前はこんな事ハッキリ言ってなかったから、やっと俺がライアを本当に好きだって、ライアの恋人になったんだって信じられる気持ちになったんだろうか。だとしたら嬉しい。 二人で同じ台座を選んで、石はそれぞれが強化したいものを選ぶ事にした。 ライアは風の加護。とにかく反応速度を上げたいらしい。それならとオレは土の加護を選んだ。ライアが仕留められないような硬い魔物を砕くにはパワーが要る。ついでについてくる防御力向上もありがたい。盾のパワーが増すだろう。 店を出て、今度は俺の防具を買うために防具屋に向かいながら、オレはしみじみと言った。 「ライアと揃いで何か買うとか、初めてだな」 「ああ。だから俺、ものすごく嬉しくて……夢だとしても、もう最大限楽しむ事に決めた」 「そっか、まだ信じられてなかったかぁ」 ちょっと残念だけど、オレがライアの気持ちに向き合わなかった期間が長かったせいだよな、と思うと仕方がない事だとも思う。どうせこれからずっと長いことライアと一緒に居るんだ。 焦らなくてもそのうち、そんな事考えてた時もあったっけ、って思える時が来るんだろう。

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