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ラウラの兄

「ルー、いつから……、今の話、全部聞いてた?」 「……」 ルーがすまなそうに頷いた瞬間、僕は肩をすくめて逃げようとした、その肩をぐっと掴まれた。 「っ、離せよ!」 こんなみっともないところを見ておいて、そのうえ何の用があるってんだ? 存外、意地が悪いなラウラの兄は。僕を笑い者にする気か? 「ごめん、聞くつもりはなかったんだ!」 「それが本当だとしても、今はそっとしておいてくれないか!?」 「そうはいかない」 「なんでだよ!」 「オランピア、僕も読んだよ」 「はあ?」 「ラウラから聞いて、ルーが読んでいたからって」 「だから何?」 「ラウラがあらすじを聞いて、笑ったそうだね。すまなかった。兄として非礼を詫びたい。あれは切なくて、ひどく残酷な物語だったのに」 「は、……」 あれは切なくて。 残酷な物語だったのに。 ひどく残酷な――。 ルーの言葉が、胸の中で何度も響いた。 「……そ、……っ」 瞬間、体の奥から濁流のような何かが込み上げてきて、止める術が見つからなくて、 「……そうだよ、……っ」 訳のわからない涙がどっと溢れて、そんな訳の分からない僕を、なぜだかルーが抱きしめていて。 「ああ……あ、……っ」 そう、あの日から。 母さんが泣いたあの日から、代わりに僕が泣けなくなった。 悲しいのに。 小さなマリー、小さな手。僕の服をつかんで、どこまでも追いかけて来た。 『兄さまのお目目はエメラルドみたい。髪は、夜みたいに真っ黒ね』 そう言って僕の髪に触れたマリー。 「ああああ、ああああ――!!」 僕はもう、抱いてくれる腕が誰のものなのかも忘れて、ただ体中の水分という水分を涙に変えることだけに夢中になっていた。そうすることしかできなかった。

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