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ルーの家(3)

「どうして、今はひとりなの」 パンを飲み込みながら問い掛けると、ルーはスプーンを持つ手をふいに止めた。 聞かれたくなかったのだろうか。 「あの、言いたくなければ別に」 「僕の両親が離婚したのは、ノアも知ってるだろう?」 「えっ?……う、うん」 そういえば、随分前に母さんがそんなことを言っていた気がする。 「父さんが母さんを追い出してから、僕とラウラは父さんと暮らしてた。けど二年くらい前かな、急に父さんがいなくなって」 ルーはそこで言葉を切ると、スープを飲んだ。 「いなくなった?どうして」 「さあね。父さんは大酒飲みで、めちゃくちゃな人だったから。勢いで母さんを追い出したはいいものの、僕らの面倒を見るとか、毎日の暮らしを何とかするだとか、現実的な覚悟なんか、ひとつもなかったんだろうさ」 世慣れた大人のような口ぶりをして、またスープをすする。 「ひどいね……」 「だろう?でももっと酷いのはそれから。その父さんがさ、こないだ川底で溺死してるのが見つかって」 「ぇ、ぐっ!!」 思いがけない展開で豆粒が喉につっかえて、 「げっほ、げほゴホッ!」 「……大丈夫?」 ルーが気遣わしげに覗き込んでくるけれど、そのセリフは僕が君に言うべきもので、 「だいじょ、げっほ、ゲホッ、っ、それでど、どうしたのっ……」 「どうもこうもさ、そのあと母さんがうちに来て、僕らを引き取りたいって。でも母さんは再婚していて、僕はその新しい人を父さんと呼ぶ気にはならなかった。 でもラウラは、ここにいても幸せになれない。だから僕は、結局のところ僕は、自分で一人になることを選んだのさ」 ほうっと息を吐き出しながら、ルーは俯いた。 幼なじみで、家も近い。なのに小学校(グルントシューレ)を卒業してからは、ほとんど話もしなかった。顔を合わせることもなかった。ラウラも、家のことは僕に話さなかった。 「そんな顔しないでよ。ほら、ね、言うと気を遣わせるだろう? だから言いたくなかったんだ」 「ルー、ぼく、」 「ノア、甘いものは好き?」 ルーがテーブルの下から魔法のように取り出したのは、僕がかつて数えきれないほど味わった、 「チョコレ――――ト!!」 「あっは、食後のデザートに決まりだね。僕の部屋へいこう、こういう物は寛いで食べなきゃ」 戦争が始まってからこっちチョコレートなんか夢のまた夢で、それがひとかけでも食べられるんなら、僕は多分どこへでも付いていくだろう。

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